DAILY SHORT COLUMNS - Daily Business -

 
2005.03.29 ■立花隆の「メディア ソシオ-ポリティクス」第2回〜ニッポン放送乗っ取り劇のミッシング・リンクの在り処


ニッポン放送乗っ取り事件のミッシング・リンクはどこにあるか。

事件が突如明らかになるのは、2月8日朝、東京証券取引所の通常の取引時間(8時20分から)外に、ライブドアが電子ネットワークを使って、一度に6回の取引を行い、ほとんど一瞬にして、ニッポン放送株972万株を取得したときである。

それだけのことを一瞬に行うためには、相当長期に渡る事前準備が必要だったはずだ。実際、ライブドアが買収資金を、調達するために、800億円の転換社債(CB)を発行し、それをリーマン・ブラザーズ証券(以下、リーマン・ブラザーズ)が全額引き受けるといったことが行われているが、その過程(下絵から、条件の詰めまでと、その後の具体的事務的作業)に相当の時間がかかっているはずである。


コーポレート・ファイナンスのすべてを仕切る米投資銀行

そもそも、堀江社長の最初の動機づけは何だったのか。そして、このようなスキームの絵図を描いたのは誰なのか。スキームの中には、ライブドアからリーマン・ブラザーズに4600万株という大量の株式が貸し出され、リーマン・ブラザーズは早速そのかなりの部分をカラ売りして、将来得るべき利益の最大化をはかるなどといった手のこんだことも行われている。

リーマン・ブラザーズは、JPモルガン、ゴールドマン・サックスなどと並んで、アメリカの金融資本の中枢に位置する投資銀行の一つである。アメリカの投資銀行というのは、大企業と超大金持(スーパー・リッチ)のファイナンス・サービスのためだけに働く、アメリカ独特の銀行で、アメリカ型資本主義そのものの体現者といっていいような組織である。これに日本の銀行のイメージを重ねると全くちがう。(大衆の預金を集めて、それを企業に貸すなどということは一切やらない。することが禁じられている)。

投資銀行がするのは、企業が生まれ(設立)てから死ぬ(清算)までに必要とされるコーポレート・ファイナンスのすべてで、主として、企業が株式を発行する、あるいは債券を発行するなどして、金融市場から資金を調達するすべてのプロセスにかかわる、その相談にのり、事務手続きのすべてを引き受ける。会社の合併、乗っ取り(M&A、TOB、LOB)なども得意中の得意で、今回のスキームも基本的にはリーマン・ブラザーズが描き、すべてのプロセスを自ら仕切ったはずで、演出したのも、全体をプロデュースしたのもリーマン・ブラザーズだろう。

堀江社長は確かにリーマン・ブラザーズにいわれるがままのリスクを取った上で、2月8日から舞台の上で踊りだした。あとはもっぱら、舞台の上で踊っている堀江社長に照明があたっているから、あたかも、最初の最初から堀江社長のヘゲモニーでことが進んだかに見えるが、そうではあるまい。堀江社長がニッポン放送買取の意図を持ち、800億円あれば、その夢を実現できると計算して、800億円の融資案件を独自にリーマン・ブラザーズに持ち込んだとして、それをリーマン・ブラザーズがおいそれと受けるはずがない。800億円の融資はリーマン・ブラザーズにとってもそう簡単に決断できるはずがないリスク・マネーである。

ライブドアの堀江社長は、IT業界でそれなりに知られている人物だとしても、800億円を融資するに足る人物なのか。そして、ニッポン放送乗っ取りが成功するチャンスはどれぐらいあるのか。乗っ取ったあと、それによってどのような利益が生み出されるのか。そのあと、フジテレビの買収まで進むのか。ニッポン放送、フジテレビ側の対抗策にはどのようなものが考えられるのか。このプロジェクトが、どこか途中で失敗するとして、その場合、リーマン・ブラザーズの利益はどこでどのように確保できるのか。


すべては米投資銀行が描く「想定のうち」

こういったすべてのポイントが徹底的に検討されたはずで、スキームが固まるまでに、何人もの両社の弁護士が額を寄せ合って、幾晩もの徹夜を重ね、高さ何十センチにも及ぶ(あるいはすべてが電子化されていたか)検討書類、契約書類を作ったはずである。後に、フジテレビ側の対抗策が姿をあらわしてきたときに、堀江社長がビクともせずに、「すべて想定のうちです」と言い放って、「想定のうち」が流行語になった。一般には、あれを堀江社長一流のハッタリ的強がりと判断した向きもあったようだが、そうではあるまい。リーマン・ブラザーズが、あれだけ特異なスキームのもとに、あれだけ巨額なリスク・マネーを動かした背景では、それこそ徹底的な起きうるあらゆる事態を想定しての検討が行われたはずだから、本当にその程度のことは想定のうちだったのだ。

ただし、念のためにいっておくと、堀江社長は大変にハッタリが強い人で、自分でもそれを自著の中で認めている。たとえば、堀江社長が最初に仲間数人と作った会社は、ホームページの制作請負会社で、その営業を堀江社長がやった。当時、堀江社長も仲間も技術的なことがそんなによくわかっていなかったので、社外の人間に高額の謝金(社内の誰よりも高い給料)を払って技術顧問になってもらっていた。

しかし、社外では技術を売りにする会社として通っていたので、クライアントから、「きみの会社ではこういうことができるか?」と問われることがよくあった。すると堀江社長は、問いの意味すらよくわからなくても、必ず「もちろんできます」と二つ返事で答えて、あわてて技術顧問のところに駆け込み、どうやればそれができるかを教えてもらい、それから徹夜作業になっても、頼まれたことを実現して、翌日、「わが社の技術陣ならこの程度のことは朝飯前です」という風を装ったのだという。

「三つ子の魂百まで」だから、堀江社長のこういうハッタリ部分が今でも堀江社長の言動の中にあるはずだが、どこがハッタリなのかは今では判定しがたくなっている。

さて、話を戻すと、本当のミッシング・リンクは、このような具体的なフィージビリティスタディが始まる以前のところにあると思う。

堀江社長の最初の動機づけはどこでどう生まれたのか。そして、リーマン・ブラザーズに話が持ち込まれる以前の段階での、最初の絵図を描いたのは誰か。そして堀江社長とリーマン・ブラザーズを結びつけたのは誰か。リーマン・ブラザーズ側はどのような計算のもとにこの話にのったのか。


〔日経BP〕

 

■立花隆の「メディア ソシオ-ポリティクス」第3回〜立役者、リーマン・ブラザーズ800億円融資のシナリオ


ミッシング・リンクの最も根源的な部分の真相は、将来にわたって、そう簡単に明るみに出てくることはないだろうが、2月8日に舞台の幕が上がり、いま我々が目にしているドラマが始まったときには、基本的なシナリオはできていたのだ。

ところどころことの進行に即応してアドリブで演じられるべき空白部分はあったろうが、あらゆる展開に備えて、ケースワーク別のシミュレーションが徹底的に行われ、これでいけるとなったところで、舞台の幕があがったはずである。


シミュレーションとリアルのはざまで高揚した堀江社長

とはいっても、シミュレーションと、リアルは違う。本当にリアルにことが進行しはじめるまで、堀江社長もドキドキだったようだ。

堀江社長のその前後のブログをまとめて最近出版された「堀江本」(ゴマブックス)では、二月八日の「そのとき」を次のように記述している。

「2005年2月8日(火)、朝6時に起床。朝一の取締役会でCB(37)発行を決議する。これまでの人生で一番大きな意思決定をした瞬間かもしれない。これまでの人生を賭けた勝負になるかもしれない。

その後、同じビルにあるリーマン・ブラザーズ証券で手続き等を行い、結果としてニッポン放送の35%の株式を取得した。

午後ニッポン放送を訪問。社長に業務提携の意思を伝えた後、六本木ヒルズのなかにあるアカデミーヒルズで記者会見を行った。」

「人生で一番大きな意思決定」

「これまでの人生を賭けた勝負」

というところに、堀江社長の高揚した気持ちがよくうかがえる。

この後のほうの記述で、

「(2月17日)その後某投資銀行とミーティング。続いて某社社長が来社。新規プロジェクトについて。ものづくりの交渉は楽しいねぇ。」

「(2月18日)そして某投資銀行来社。ためになるお話。そしてまた面接、またまた投資銀行とミーティング。」

などの記述があり、最近堀江社長が複数の米投資銀行と大変親しい関係に入っていることがうかがえる。


オン・ザ・エッヂ時代に味わった日本の証券会社への失望

そもそも堀江社長と米系資本との関係がどのあたりから始まったのかというと、かなり古い(といっても数年前だが)。堀江社長が初めて証券市場に自社(ライブドアの前身「オン・ザ・エッヂ」)を上場したときには、日本の証券会社P社の世話になったが、そのサポートの仕方に甚だしい不満を持った。

「堀江貴文のカンタン!儲かる会社のつくり方」(ソフトバンク)によると、こうだ。

「P証券との間では公開価格をめぐって土壇場まで争った。(略)

わが社でIPO(新規株式公開)を担当しているのはCFOの宮内だったが、彼は当時、顔を真っ赤にしてはP証券の公開引受部長と大げんかを繰り返していた。

しかし最もひどかったのは、上場後の対応だった。(略)

P証券は、このあたりのサポートは非常に不十分だった。(略)」

「そんな不満もあって、上場後にP証券との取引を解消し、最初に話のあったM証券に乗り換えた。だがM証券と付き合って分かったのは、この会社の担当者は、『自分のことしか考えていない』ということだった。担当した会社と一緒に自分も成長していこうなんてことは、これっぽっちも考えていなかった。担当者は、目前の利益を上げることにしか興味がながったのである。そんなことに落胆し、その後再び証券会社を乗り換えて、現在は外資系証券と取引している。

さすがに外資系の証券会社は非常にアグレッシブだった。大きなリターンを得るために、多少のリスクも顧ないという姿勢が貫かれており、P社のように中途半端に逃げ腰になることもない。今は日本株の半数近くを外国人投資家が買っている時代で、そのような状況の中ではワールドワイドな販売力を持っている外資系証券のパワーは非常に心強い。ここにきて、ようやくまともな証券会社と出合ったような気持ちだった。」


買収されて「社長も社員もみんなハッピー」

上場後のライブドア(この社名は2004年2月からだが、以下その前進も含んでライブドアと書く。正確には2000年4月「オン・ザ・エッヂ」→2003年4月「エッジ」→2004年2月「ライブドア」)の株式時価総額は、最も上がったときは9000億円、最も下落したときは50億円まで下げるなど浮沈を繰り返して今日にいたっている−−現在は約3000億円。といっても、一株当たりの価格が大きく変動してきたし、株数も変動したので、このあたりの数字と同列に並べて比較できる数字ではない。これはあくまで参考資料−−その後の成長過程で、ライブドアは、同業の有望IT企業を次々と吸収合併で呑み込んでふくれ上がってきた。

「ライブドアは成長とともに、さまざまな企業を買収していった。『買収』というと悪いイメージに取る人もいるかもしれないが、そんなことはない。会社が買収されることで、その社長も社員も、みんなが幸せになれるケースというのは少なくない」

と堀江社長は「儲かる会社の作り方」に書き、同書に、「吸収されてハッピー」な体験談を幾つも収録している。


〔日経BP〕

 

■立花隆の「メディア ソシオ-ポリティクス」第4回〜時間外取引、村上ファンド、顧問弁護士解任の舞台裏


ニッポン放送問題では、吸収したあとに、堀江社長にはそのあとニッポン放送をどうするのかのビジョンが何もないと批判されているが、堀江社長が自分のところと一緒になったほうが必ずうまくいくと自信を崩さないのは、これまで毎年次から次にM&Aを仕掛けて、それがほぼうまくいってきたという実績があるからだろう。

ここで、ほぼうまくいってきたとしか書かないのは、失敗例もあるからだ。買収の歴史に関しては、「儲かる会社の作り方」の巻末資料がいいが、その後の買収についてと、失敗例に関しては、3月24日付け日経新聞の記事「買収後問われる経営」が情報量が多くていい。ここでは以下、あまり詳しくは書かない。


バリュークリック買収劇でみせたアメリカ流TOBの手腕

吸収合併した相手には、社名まで吸収してしまったプロバイダー会社、「ライブドア」の他に、アスキーの電子商取引部門「アスキーEC」、インターネット金融サービス会社「ビットキャッシュ」、インターネット広告会社「バリュークリックジャパン」などがある。

米事業法人の子会社であるバリュークリックジャパンの場合は、ライブドアの幹事証券会社となった外資系証券会社の支援を得てだろうが米国本社が持っていた51%の株を、株式公開買い付け(TOB)で堀江社長が全株買い取るというアメリカ流のビジネス手法を用いている。このような直接的買収ビジネスを通じてM&A、TOBは堀江社長の得意業となっており(04年だけで14件)、その専門的実行部隊が社内ですでに育成されている。

バリュークリックジャパンの元社長、ジョナサン・ヘンドリックセン(ニュージーランド出身)は、同社のTOBが実にスムーズに素早く進行した例をあげて、堀江社長のビジネスのやり方は全くのアメリカ流だが、それは、インターネットの世界が元々アメリカ流だからだと解説し、堀江という人物の持つ資質は、ビル・ゲイツのそれに近いところがあるとまでほめちぎっている。

今回のニッポン放送乗っ取りが、このようなビジネスの積み重ねの延長上に生まれたのか(ことの進め方、人脈)というと、それはちょっと異質なものがあるような気がする。確かに、堀江社長は、アメリカ流のビジネスのやり方を身につけており、日本のIT市場でそれなりの成功を収めた将来有望な若手経営者の一人に数えられており、アメリカの投資家からもそれなりに評価されていた(モルガン・スタンレーが前から第4位の大株主に入っている)。


800億円投資のカギ握る村上ファンド

しかし、リーマン・ブラザーズがいきなり800億円投資して可と判断するほどの人物とは映っていなかったはずだ。誰かが、堀江社長とリーマン・ブラザーズを結びつけ、堀江社長に800億円投資すれば、その目論見が成功するに違いないということを解説的に紹介した人物がいるはずで、それがミッシング・リンクだと思っていたら、この数日で、そこがほぼ明らかになってきた。「週刊現代」の「ホリエモン『影の指南』の大笑い」という記事は、次のような外資系証券会社の関係者の証言を紹介して、ミッシング・リンクが、村上ファンドの村上世彰氏であったということを明らかにしている。

「ニッポン放送株に真っ先に目を付けたのは村上氏で、今年になってホリエモンを巻き込んだ。村上氏はゴールドマン・サックス証券(GS)と親しい。そのGSをホリエモンに紹介したのも村上氏。GSはニッポン放送のM&Aのシナリオをホリエモンに提供し、後にリーマン・ブラザーズ証券がシナリオを引き継いだ。つまり今回の買収劇の影の立て役者は村上氏なんです」

村上氏は、堀江社長が2月8日の東証の取引開始後わずか30分の間のうちに6件の巨額時間外取引を成立させて、ニッポン放送の株式の35%を一挙に押さえた電撃的ドラマが始まったときからささやかれていた影の人物で、この証言に近い話が他のメディアからももれてきているから、ことの真相は大筋こんなところなのだろう。堀江社長がその日に買い集めた株式は、村上氏の持っていた株式プラス、おそらくリーマン・ブラザーズ経由で話が詰められた何人かの大株主(米法人もいた)の株で、この30分間での一挙取引こそ、事前に練りに練られたシナリオだったわけだ。


事前に練りに練られた時間外取引のシナリオ

このような取引が許される「時間外の時間」というのは、たった30分間しかないから、この取引は事前にできあがっていた完全シナリオに沿ってササッと行われたと考えられる。しかし、このような巨大取引が事前の談合の上でなされたとすると、証券取引上のルール違反となるから、関係者は、事前の談合があったとは口がさけても言えない。

それなのに、堀江社長は、3月3日に外人記者クラブに招かれて質問を受けたとき、思わず村上と事前に会ったことを認めてしまっている(談合したことまでは認めていない)。それを知った堀江社長の顧問弁護士であった猪木俊宏弁護士(後に突然辞任した)は、堀江社長の「しゃべりすぎ」を厳しくたしなめたといわれるが、それは、このルール違反の事実が明るみに出ることを恐れたからだろう(そのような違反行為が行われるのを弁護士が知っていて、それを止めなかったとすると、弁護士の責任問題になり、下手をすると違法行為を使そうしたとして、弁護士資格が問われることになりかねない)。そして、これは、関係者がとことんシラを切り通せばこれ以上の問題にされることはないだろうが、同時に同じ理由で、これ以上真相が明らかにされることもないだろう。

ここは、ウラの事実関係をあくまで明るみに出して、それを糾弾しようとする場ではないから、この問題のこれ以上の追及はやめて、むしろ、この問題の背景にあるもっと大きな事実に目を向けておこう。

それはこの問題で、決して明るみに出ることなく、背景の薄暗がりの中にひっそり身を沈めているリーマン・ブラザーズという影の主役の存在である。


〔日経BP〕

 

■立花隆の「メディア ソシオ-ポリティクス」第5回〜浮き彫りになったアメリカ金融資本“むしりとり”の構図


この一連のできごとで、誰が一番儲けたかというと、それは文句なしにリーマン・ブラザーズである。リーマン・ブラザーズの利益は、二つのルートから生み出される。一つは堀江社長に用立てた800億円の資金の金利(それがどのような約定になっているか確かなところはわからないが、相当な高金利と推定してまちがいないだろう)である。

もう一つは、堀江社長から譲り受けた膨大なライブドア株を市場でカラ売りしては買い戻すことを繰り返すことによって得られる利益である。ライブドアはニッポン放送・フジ連合軍に対してこれほどあざやかな勝利をおさめたのだから、普通に考えたら株価が市場で急騰しても不思議ではないのに、事実はそうなっていない。反対に若干ジリジリと下げてしまう局面すらあった。


リーマンのカラ売りが作りだす“巨大ブラックホール”

事実問題としては、ライブドア株に相当の買い注文が入り、値上がり圧が一貫してかかっているのだろうが、市場の動きを見ながらリーマン・ブラザーズが手持ち株のカラ売りをずっと続けているから、結局、市場の値上がりエネルギーはリーマン・ブラザーズの巨大なカラ売りが作り出すブラックホールの穴に全部吸い取られてしまうのである。ブラックホールに吸い取られた値上がりエネルギーは、結局、リーマン・ブラザーズのカラ売り株の買い戻し操作によって、キャッシュの利益となって、同社の懐に入っていく。

カラ売りをし過ぎて株価がどんどん下がっても、それは買い戻しの時の利益を増やすだけだ。もし、市場の値上がり圧のほうが強くなって、株価が上がったりしたら、リーマン・ブラザーズは今度は転換社債を株にすることによって儲けを回収することができる。その際、リーマン・ブラザーズは株価より一割程安い価格で入手できることになっているから、転換して株をすぐ市場で売ったとしても10%の利益は保証されるわけだ。

要するに、このスキームでは、リーマン・ブラザーズはどうころんでも必ず儲かるようになっているのである。誰が考え出したのか知らないが、ほとんど天才的なスキームといっていいだろう。このスキームによって堀江社長がむしり取られる(株価上昇で堀江社長に入ったはずの利益は全部リーマン・ブラザーズの懐に入ってしまった。堀江社長はライブドアの株の大株主だから、その失った利益=リーマン・ブラザーズに与えた利益はとてつもない巨額なものになっているはず)とともに、勝ち組の堀江社長に乗って一儲けしようと、市場でライブドア株に手を出した人たちも皆リーマン・ブラザーズにむしりとられることになる(ライブドア株を買っても期待した利益は全く得られず、買いのエネルギーは全部、ブラックホールを経由してリーマン・ブラザーズの懐に入っていく)。


リーマン以外の全当事者が損するスキーム

これは知れば知るほど呆れたスキームで、堀江社長も含めて、リーマン・ブラザーズ以外の全当事者が損する一方のスキームである。目はしがきき、これまではあらゆる場面で巧妙なビジネスをやってきた堀江社長がなぜこんなバカげたスキームにのったのかと不思議な気がするかもしれないが、実は堀江社長にはこのスキームに乗る以外、他に資金調達の方法がなかったのだ。

その辺の裏事情を、「WEDGE」4月号の「日本で猛威を振るい始めた日本金融軍団“ 荒稼ぎ”の極意」は、次のように解説している。

「昨年末、堀江社長は買収資金を工面しようと、内外の金融機関を走り回っていた。ライブドアの内実を知る外資が応じた金額は、100億円程度だったとされる。200億円を提示した投資銀行もあったようだが、とても足りなかった。資金不足で買収断念かと思っていた矢先に、突然話がまとまった。『外資の担当者が、この案件を持ってリーマンに移ったからだ』と関係者はいう。」

要するに、800億円という身の程知らずの一大借金(CB発行)をしなければ、堀江社長はこのニッポン放送乗っ取りという一大バクチを敢行することが出来ず、800億円借りるためには、このように唖然とするほど屈辱的条件のスキームを呑まなければならなかったということである。

この後、堀江社長はいったいどうなるのか。手に入れたニッポン放送を利用して、意外な成功を収める(フジ産経グループとの連携による事業拡大)可能性もないではないが、逆の可能性(フジとの連携もならず、ニッポン放送を利用しての事実拡大もならず、結局は、リーマン・ブラザーズに丸裸になるまでむしりとられてスッテンテン)も同様にあるというところだろう。


小泉改革が後押しするアメリカ金融資本一人勝ちの構図

先の「WEDGE」の記事は、これが、バブル崩壊以後、日本で続いているアメリカの金融資本による日本の富のむしりとり路線の流れの上にでてきたものであることを指摘している。要するにリップルウッドによる新生銀行再生プロジェクトでの2200億円荒稼ぎ、ゴールドマン・サックスによる三井住友支援等での1700億円荒稼ぎがいろいろあったが、そういうむしりとりの一環だということだ。

この記事は、グローバル化の波の中で、各国の金融資本が海外に出て稼ぐことが基本的に自由化されたが、その自由化(国際的金融ビッグバン)によって稼ぎまくっているのはもっぱらアメリカの金融資本であるということを指摘して、次のような数字を示している。

米国の海外直接投資による収益率は全世界に対して、10.3%。逆に、米国以外の国からの対米直接投資の利益率は、平均で4.2%(欧州が4.5%。日本は5.0%)。要するに、アメリカ金融資本の一人勝ちなのだ。そして、特に、むしりとられ方が激しいのが日本なのだ。

先に述べたようにアメリカの対外直接投資からの平均収益率は10.3%だが、その内訳をみると対欧投資からは9.6%にとどまっているのに対して、対日投資からは、実に13.9%もの収益をあげている。これだけ日本からのむしりとられ方が異常に進んでいるというのも、いわゆる小泉改革がアメリカの利益を計るためとしか思えない方向性をもって推進されてきたからであるという。(この項、次回に続く)


〔日経BP〕


2005.03.22

■地銀、健全性アピール ペイオフ来月全面解禁
相次ぎ自己資本増強

 地方銀行が4月のペイオフ全面解禁を目前に、相次いで自己資本の増強に動いている。解禁を機に、預金者が厳しく銀行を選別することが予想されるため、自己資本比率を上げて財務体質の健全性をアピールしようと懸命だ。(大海英史、高田寛)

 福岡県内の2行が昨年10月に合併して誕生した西日本シティ銀行(本店・福岡市)は、約7%だった自己資本比率を3月末に8%台に引き上げる。同行は「8%台に上げることで、預金者に経営の健全性を示したい」(総合企画部)とする。

 昨年12月、所有者の請求で社債から株式に転換できる「転換社債型新株予約権付社債(CB)」を200億円発行。今年2月にはすべてが株式に転換され、資本が増えた。3月下旬には自己資本に組み込める劣後債を270億円発行する。

 福島銀行(同・福島市)も7%まで引き上げるために、昨年9月にCBを20億円発行。県内で競争する銀行が相次ぎ資本を増やしたこともあり、この3月にさらに劣後債を45億円発行し、8%台まで上げようとしている。

 これら2行のように、資本増強した地方銀行は昨年12月以降、10行以上になる。4月のペイオフ全面解禁で、一部の預金を除いて、金融機関が破綻(はたん)した際の1人あたりの預金の払い戻し保証額が元本1千万円とその利息までとなり、預金者の銀行経営に対する見方が厳しくなると予想されるからだ。

 自己資本比率は銀行の財務力を示し、国内だけで営業する金融機関は4%が健全かどうかの基準だ。国内の全国地方銀行協会加盟行と、第二地方銀行協会加盟行は現時点で、破綻した足利銀行を除き、すべて4%以上を確保している。

 だが各行は「預金者から確実に信頼を得るには8%をめざす必要がある」(地銀幹部)と、大手行など国際業務をおこなう銀行の基準である8%に照準を合わせる。

 こうした資本増強競争には悩みもある。ある地銀の幹部は「本当は第三者割当増資で株式資本を増やしたいが、地方の場合、引受先はどうしても融資先企業になる。依然厳しい地方の経済情勢の中では引き受け手が少なく、無理にお願いすれば、圧力と受け取られる」と打ち明ける。

 そこで各行はCBや劣後債の発行を活用。証券会社が一括して買い取って機関投資家に販売したり、高い金利設定で販売したりするので、引き受け手も確保しやすいからだ。スタンダード&プアーズの吉沢亮二主席アナリストは「劣後債の発行などで、市場で資本調達できたことは評価できる。ただ、株式発行による本来の増資と違い、将来の返済や金利負担もある」と、資本の「質」の違いを指摘する。

 地銀・第二地銀では、ペイオフ全面解禁を控えて、経営基盤の強化をアピールしようと、昨年後半から、茨城県の関東つくば銀と茨城銀、広島県のもみじホールディングスと山口県の山口銀などの組み合わせによる経営統合の表明が相次ぐ。

 資本増強も狙いは同じだが、ある地銀幹部は「資本増強はパーティーの前に、お化粧できれいに見せようとしているようなもの。今後は、地道に収益を上げられるかどうかが重要」と話す。

     ◇            ◇

《キーワード》銀行の自己資本比率 銀行の貸出残高など「総資産」に占める「自己資本」の割合。国際的に営業する銀行は8%以上、国内営業の銀行は4%以上が、経営の健全性を示す基準とされる。自己資本には、資本金などの「中核的自己資本」のほかに、「補完的自己資本」として、劣後債(発行会社が倒産した場合、一般の無担保社債より支払い順位が低く、株式に近いとみなされる債券)などが認められている。

     ◇            ◇

◆地方銀行による最近の資本増強策

時期     銀行名    手法     金額

04年12月 東邦     劣後債   150

       関東つくば  CB     15

       西日本シティ CB    200

05年 1月 東和     劣後債   150

    2月 池田     劣後債   150

       札幌北洋HD 普通株   245

       関東つくば  CB     15

    3月 ほくほくFG 劣後債   200

       中京     劣後債   100

       大東     新株予約権  20

       愛媛     劣後債    60

       泉州     劣後債   100

       関西アーバン 劣後債   100

       西日本シティ 劣後債   270

       福島     劣後債    45

       びわこ    優先株   185

(注)単位・億円。HDはホールディングス、FGはフィナンシャルグループの略。

〔朝日新聞〕


2005.03.21

■堀江氏「来襲」の波紋 テレビ界への挑戦状

 「放送と通信の融合」という旗を掲げ、ライブドアの堀江貴文社長がメディア買収に激しく動いている。対するテレビ各局は、あたかも「黒船来襲」にあったかのような動揺ぶりだ。テレビ側は「通信との連携にはすでに乗り出している」と反発する一方で、「現在の収益構造を変えたくない」という本音ものぞかせる。堀江氏のメディア戦略とは何か。それがテレビ界にどんな波紋を広げているのか。

○ライブドアの戦略 ヤフー追い越す悲願

 「テレビ局って、色々な資産を持っているんですよね。テレビを取ればいろんなことができる。しかも経営が甘いんですよ」

 昨年夏、プロ野球の球団の買収問題が話題になっていた時期に、堀江氏は周辺にもらした。「プロ野球より取るのは楽だ」とも言ったという。

 この話を聞いた関係者が語る。「テレビ出演が増えたことで、彼はテレビの楽しさを知った。でも、その世界の中心を形成しているのは仕事のできない古い経営者。だったら自分が買おうと思った。彼は本当にフジテレビが好きなようだ。彼は好きなものには金を出す。ニッポン放送の買収は愛情の印だった」

 堀江氏は今月初め、日本外国特派員協会で強調した。「ネットはすべてにおいて既存メディアに勝る。放送はどんどん先細りになるが、まだブランドと集客力はある。IT化すれば新しいビジネスモデルになる。ここ1、2年が勝負だ」

 堀江氏は「既存メディアとの融合によるシナジー(相乗効果)」を繰り返し唱えている。

 そのうえで「番組と連動した商品販売」「視聴者の声を生かしたドラマシナリオづくり」「放送広告とネット広告の連動」などの案を打ち出している。

 ライブドアの伊地知晋一・上級副社長は「テレビ番組を有料にしたり、広告をつけてネット配信したりする例は、海外ではよくある」と語り、フジテレビの番組ソフトをネットで配信する狙いを示唆する。

 実際、堀江氏はネット上で「韓国では放送直後のドラマがオンデマンドでネットで見られる。スポンサーのCMさえちゃんと流せばいいわけですよ」と語っている。

 堀江氏の悲願は、インターネット界の巨人といわれ、孫正義氏が率いるヤフーを追い越すことだと見る人は多い。孫氏はかつて、メディア王といわれるルパート・マードック氏と組み、テレビ朝日株の大量取得に動いた。堀江氏がフジテレビを手にできれば、孫氏もできなかったことを実現することになる。

 ライブドア幹部は「まだ遠いが、ヤフーの背中は見えてきた。今回の提携がまとまれば、距離は一気に縮められる」。

 堀江氏を何度も取材したジャーナリストの佐々木俊尚さんは言う。

 「堀江さんはロジックとルールがすべて。ネット業界はロジックが正しければ成長できたが、彼はその外の世界に飛び出してしまった。まさかここまで突き進むとは、という衝撃が既存メディアに不安を抱かせている」

○テレビ局側の困惑 「収益構造」変化に恐れ

 「ライブドアのやっていることは『桶狭間』であって、同じ奇襲戦でも(勝算のあった)『一ノ谷』ではない。ばくち性が強すぎる」。日本テレビの氏家斉一郎会長は、歴史上の合戦になぞらえてそう話す。

 ライブドアは、日本の商慣行に全くとらわれない新手の手法を次々と繰り出してきた。対して従来型の商取引を踏襲する経営者たちは、この戦略に振り回されているようにも映る。

 氏家会長は「放送に触手を伸ばしたということは、大衆の嗜好(しこう)に応えていかなければならない。テレビやラジオの“株主”は出資者でなく視聴者。視聴者の気持ちが離れたら経営破綻(はたん)につながる」という。

 ニッポン放送OBである脚本家倉本聰さんは「僕はドラマを通して『心を洗う』ことにこだわってきた。今回の騒動は、収益率を上げ、カネもうけしようという最近のテレビの功利主義的な姿勢を突かれてしまった側面を感じる」と語る。

 「放送局はネット事業で何もしていない」。そう堀江氏に決めつけられた民間放送各社は、総じて反発した。「10年も前から通信との連携を進めている」(フジ)、「アニメの動画配信はすでに始めている」(テレビ東京)などだ。確かに各局とも携帯電話やホームページでのニュース配信や番組情報提供、通販などは当たり前になった。

 ただ、巨額の費用を投下して制作した、キラーコンテンツと呼べる番組のネット配信事業は本格化していない。

 試みの一つとして、TBS、フジテレビ、テレビ朝日の3社は、02年に企画会社「トレソーラ」を設立。過去2回、期間限定の有料配信実験をした。同社の福田泉事業企画室長は「現段階で、収益事業としては時期尚早と判断している」。

 大きな理由の一つとして挙げるのが、著作権などの権利処理が煩雑なことだ。番組を放送以外で2次利用する場合、出演者や使われる音楽の著作者、実演者などと新たに契約を交わし直さねばならない。だが、そのルールがまだ未整備だ。

 このほかにも、著作権者が敏感なコピー防止技術や画像処理技術などへの開発コストなどが収益を悪化させる原因という。福田室長は「技術は日進月歩、ルールも次第に整う。その時点で一気に事業化できるよう、準備している」と話す。

 一方で堀江社長の指摘に肯定的な声も聞こえてくる。ネット事業に携わるあるテレビ局関係者は「放送以外にコンテンツを提供して視聴率が下がり、CM収入に響くことを民放は恐れているからだ」という。別の関係者は「視聴者は見たい番組を自由に見たいはず。しかし局側は自らの編成権を奪われたくない。『これを見なさい』という感覚が払拭(ふっしょく)できないんです」と指摘する。

 テレビ局幹部は言う。「今はあらゆる可能性を検討している時期。ただ堀江氏の登場で、ネット事業への取り組みのスピードが速まる可能性は十分ある」

〔朝日新聞〕


2005.03.13

■ニッポン放送の増資差し止め、「妥当」が経営者の7割

 ニッポン放送の買収を巡り、東京地裁が同放送の新株予約権発行を差し止めた仮処分決定について、企業経営者と市場関係者の大半は同地裁の判断を「妥当」とみていることが分かった。日本経済新聞社が12日まとめた緊急アンケート調査の結果明らかになった。「株式の大量発行が既存株主の不利益になる」などを理由に挙げている。敵対的買収について肯定的な回答をした経営者は1割に達しなかったのに対し、市場関係者は7割に上った。

 調査では国内の主要企業34社の社長と株式運用に携わる29社のファンドマネジャー、ストラテジストなどから回答を得た。

 企業経営者で東京地裁の判断を「妥当」と答えた経営者が70.6%、「妥当でない」と回答したのはわずか1人だった。26.5%は無回答だった。市場関係者は全員が妥当と答え、無回答もなかった。

〔日本経済新聞〕


2005.03.12

■新株予約権差し止め ライブドアの申請認める 東京地裁
 ニッポン放送、異議申し立て

 ライブドアとフジテレビによるニッポン放送株争奪戦で、東京地裁は11日、ライブドア側の申請を認め、同放送によるフジへの巨額の新株予約権の発行を仮に差し止める仮処分決定をした。鹿子木康(かのこぎやすし)裁判長は「発行は現経営陣の支配権を維持することを主な目的とするもので著しく不公正だ」と述べた。同放送側は決定を不服として同日夜、同地裁に保全異議を申し立てた。

 最初の司法判断は申請から15日で示された。

 決定は、ライブドアが5日以内に5億円を担保として供託することを条件にしている。今後、新株予約権を発行する予定だった24日までに決定を覆す司法判断が出なければ、ニッポン放送は新株予約権を発行できない。フジは公開買い付け(TOB)で同放送株の36・47%を確保し、あと約888万株の新株を引き受ければ50%を所有し、同放送を子会社化できた。しかし、計画は「凍結」を迫られ、主導権は筆頭株主のライブドアが握ることになる。

 今回は、新株予約権の発行について(1)第三者(フジ)に特に有利な条件で行われたか(2)著しく不公正な方法だったか、が主な争点だった。(2)については発行目的が支配権の維持かどうか▽「企業価値の維持」のための発行を認めるかどうか――の判断が必要だった。

 差し止めの一つの要件は発行の「条件」だ。第三者への有利発行にあたるとなれば、株主総会の決議を経ていない今回の発行は商法に違反することになる。決定は有利発行とまではいえないと判断した。

 もう一つの要件は、発行方法のあり方だ。決定は、新株発行に関する過去の裁判例で有力なルールとなっている「主要目的が支配権の維持にある場合は不公正」という判断を適用。発行は「フジサンケイグループに属する経営陣の支配権を維持することを主たる目的とするもの」と認定した。同放送側は「ライブドアの支配により企業価値が損なわれるのを防ぎ、放送の公共性を確保するために発行した」と主張した。

 ニッポン放送がライブドアの子会社になった場合について、決定は「ネット利用者の増加などからすると、ラジオとネットの事業の相乗効果が期待できないとはいえず、ライブドアの計画に合理性がないとまではいえない」と述べた。

 ライブドアの時間外取引による株式取得についても「規制対象になっておらず、証券取引法に違反していると認めることもできない」と述べた。

◆「これまで通り、提携呼びかけ」 堀江社長

 ライブドアの堀江貴文社長は11日夜、東京都港区の六本木ヒルズにある本社で記者会見し、フジサンケイグループに対し「従来通り事業提携を呼びかけていく」と述べ、提携関係を築くことに意欲を示した。

 地裁判断については「前進だと思っている。(フジ側に)話し合いのテーブルについてもらえる可能性が高まったのではないか」と述べた。

 ただ、議決権の過半数の取得をめざして市場でニッポン放送株を買い進める方針も改めて表明。現時点での持ち株比率については説明を避けた。

 ニッポン放送が審尋のなかで「ライブドア傘下になると取引先との関係が打ち切られるなどの悪影響が予想される」としたことについて、「そういうことは起きないと思う。フジも大株主なので、(同放送の)価値向上という意味では運命共同体だ」と強調した。

◆「利点あれば提携しても」 フジ日枝会長

 フジテレビジョンの日枝久会長は12日未明、記者団に対し、「残念だな、というのが実感。(ライブドアの堀江社長とは)私自身は会うつもりは毛頭ないが、ビジネスの提携の話で会いたいということなら、担当役員が会うと前から言っている。事業にメリットがあれば提携をしてもいい」と話した。

〔朝日新聞〕


■ライブドア、関西テレビと一時提携話 決定文で明らかに


 ライブドアが大量のニッポン放送株を取得する以前、フジテレビジョン系の関西テレビ放送と業務提携に向けた話し合いを進めていたことが、11日に東京地裁が公表した決定文で明らかになった。

 ライブドアによると、同社は昨年11月以降、関西テレビとポータル(玄関)サイト開発などで協力するため、交渉を進めていた。しかし、今年2月8日にライブドアがニッポン放送株を取得すると、フジサンケイグループとの関係が悪化。「提携話が保留になった」(ライブドア幹部)という。

 ライブドアは、ニッポン放送株の取得が短期的な利益を目的とした「マネーゲーム」ではないことを示すため、関西テレビとの提携話を地裁に提出した準備書面に盛り込んだ。

〔朝日新聞〕


■ライブドア仮処分:
フジ側、企業防衛へ「焦土作戦」も

 ライブドアとフジテレビジョンによるニッポン放送株の争奪戦で、フジサンケイグループが「焦土作戦」と呼ばれる企業防衛策を検討していることが、11日分かった。ニッポン放送の新株予約権発行が認められず、ライブドアが経営権を獲得する場合に備える。ニッポン放送グループの稼ぎ頭である子会社をフジサンケイグループの企業に売却するなどして、ニッポン放送の企業価値を大幅に引き下げてしまう戦略。実行されれば、国内初のケースになる。

 焦土作戦は、買収対象の企業の子会社や資産を切り離したり、あえて多額の負債を負うことで企業価値を下げ、買収側の意欲をそぐのが狙い。80年代に米国で、敵対的企業買収に対する対抗策として生まれた。

 ニッポン放送の04年3月期連結決算は売上高1094億円、営業利益25億円。このうちニッポン放送単体の売上高は308億円、営業利益は5億円に過ぎない。売上高と営業利益の大半は子会社のポニーキャニオンなどが占めているため、こうした子会社が売却されると、その対価として一時的に売買代金が入ったとしてもニッポン放送の実質的な企業価値は低下する。

 フジサンケイグループは、今月末までに新株予約権の発行が認められず、ライブドアがニッポン放送株の過半数を占めた場合を想定。ニッポン放送の子会社、保有資産などの価値や、グループ内でこれらを売却した場合の税負担などを試算している。子会社を増資し、その株をフジテレビなどが保有することで、同放送から切り離すことも検討している。

 ただし、不当に安い価格で売却してニッポン放送に損害を与え、株主代表訴訟の対象にならないよう、慎重に検討を進めている。

〔毎日新聞〕


■社説:
ライブドア仮処分 やはり会社は株主のものだ

 ニッポン放送をめぐるライブドアとフジテレビの買収合戦で、東京地裁がライブドアの仮処分申請を認める決定を行った。ニッポン放送によるフジテレビに対する新株予約権の発行は差し止められるが、ニッポン放送は異議を申し立てた。東京地裁は改めて判断を示すことになる。

 現在のニッポン放送の発行済み株式総数は3280万株だが、フジテレビが新株予約権を行使すると4720万株を取得し、ニッポン放送を子会社化できる。ライブドアのニッポン放送買収は失敗することになる。

 仮処分申請の中でライブドアは(1)発行価額が市場価格より低く有利発行と思われるのに株主総会による承認を得ていない(2)ニッポン放送には新株予約権で資金調達を行う必要性がない(3)ニッポン放送の株式取得を阻止し、フジテレビのニッポン放送への支配権維持のみを目的としている(4)ニッポン放送の株価下落を意図している−−と主張していた。

 東京地裁は、新株予約権の発行について「現経営陣の支配権維持を目的とするもので、著しく不公正な方法による発行と認められる」と認定した。フジテレビとニッポン放送が、フジサンケイグループに残ることが企業価値を高めると主張している点については「特定の株主の支配権獲得で企業価値が損なわれる場合には、相当な防止策をとることが許される場合はあるが、今回は損なわれることが明らかとは言えない」との判断を示した。

 フジテレビとニッポン放送は、ライブドアがニッポン放送株を大量に取得した東京証券取引所の時間外取引について違法性の疑いがあると主張している。しかし、金融庁は合法という見解で、新株予約権の発行はライブドアの強引なやり方に対する緊急避難措置というフジ側の主張を認めなかった。

 次の焦点は、異議申し立てに対する東京地裁の判断に移るが、さらに高裁、最高裁に判断を求めることになると予想され、決着するにはまだ時間がかかる。

 最終的な決着は不明だが、今回の買収劇はさまざまな波紋を広げた。今国会では商法改正が予定されているが、自民党内から外資による買収を助長するとして反対の声が高まっている。これは、小泉純一郎首相が唱える対日投資拡大による経済活性化と矛盾する。

 今回の騒動は、証券市場の規制緩和が進む一方で、M&A(企業の合併・買収)法制の整備が遅れた結果でもある。時間外取引以外にもライブドアの行動には問題が指摘されている。何度も株式を分割して高株価を誘い、膨らんだ時価総額を背景に株式交換で企業を買収していく手法などだ。

 しかし、だからといって対抗策は何でも許されるわけではない。フジサンケイグループは、創業一族の鹿内家の支配から脱するため、ニッポン放送の株式を上場させて発行株数を増やした。そうして市場を利用しながら、上場に伴う買収のリスクは否定するというのは、やはり虫が良すぎる。

〔毎日新聞〕


■ライブドア仮処分:
東京地裁「商事部」3人が合議決定

 ライブドアの仮処分申請を審理した東京地裁民事8部は「商事部」の別称を持ち、主に株主代表訴訟などの経済案件を扱う。仮処分は通常「保全部」と呼ばれる民事9部が担当するが、今回は申請の根拠が商法であるため、商法を専門とする商事部が担った。

 審理は1人の裁判官で行う場合と、3人の合議体で臨む場合がある。いずれも非公開。今回は問題の重大性などを考慮し、合議体で行われた。

 担当したのは鹿子木康裁判長(43)と真鍋美穂子裁判官(37)、大寄久裁判官(37)の3人。鹿子木裁判長は昨年7月、ベルシステム24の新株発行を巡る仮処分申請で「支配権維持の意図は否定できないものの(新株発行後の)事業計画に合理性がある」として、差し止めを認めなかった。大寄裁判官もこの判断に加わった。

 一方、商事部のトップである西岡清一郎・部総括判事(55)は審理に加わらなかった。これはニッポン放送側が異議を申し立てた場合、その審理を担当する可能性を考えたとみられる。【坂本高志】

〔毎日新聞〕


■放送の未来像:
ライブドア・堀江社長から挑戦状…、融合は進むのか?

 「既存メディアはスピードに欠ける」「コンテンツ配信などで放送局と協業したい」。ニッポン放送の経営権をめぐり、ライブドアの堀江貴文社長から挑戦状をつきつけられた格好の放送界。放送のデジタル化で通信との親和性が高くなり、両者の融合が進むと期待されながら、地上波番組のブロードバンド配信が進まないなど、その未来像は見えにくい。そこには、技術の進歩にビジネスモデルの再構築が追いつかない放送界の現状があるようだ。

■■「テレビがネットを取り込む」?

 「われわれのIT分野の考え方は、ブロードバンドとモバイル。ブロードバンドはコンテンツ配信実験もしているし、モバイルは先進的にコンテンツを作ってきた。テレビがインターネットを取り込むのであって、堀江さんが『テレビ局は何もやっていない』というのは何を言っているんだ、という感じだ」

 放送界に対する堀江社長の指摘に対し、フジテレビの村上光一社長は先月24日の定例会見で、強い口調で反論した。

 パソコン向けの各放送局は、携帯電話やインターネットを使った番組宣伝に熱心だ。大半の番組に専用サイトがあり、ニュース閲覧▽スポーツの試合速報▽通信販売▽着メロや動画のダウンロード−−などを行う。

 広告の専門誌「宣伝会議」の調査では、テレビを見ながらインターネットを利用する人が半数を超え、いまやテレビの一般的な視聴形態だ。ドラマのサイトは掲示板を通じたファンのコミュニティーに成長し、放送終了直後から書き込みが相次ぐ。放送のデジタル化に伴い、各局とも双方向型の番組制作を模索しており、テレビ朝日では、ネットによる視聴者参加型番組「テスト・ザ・ネイション」なども登場した。

■■ブロードバンド配信、足踏み

 放送側のネット利用は活発だが、放送側がネットに“門戸開放”するケースは依然、少ない。

 ブロードバンド時代のコンテンツ流通を見据え、00年には日本テレビなどが権利処理システムを開発する「ビーバット」を設立。02年にはTBS、フジテレビ、テレビ朝日などが「トレソーラ」を設立し、権利処理をした地上波の番組を実験的に配信したが、コスト高で事業化のめどが立たず、地上波の番組のブロードバンド配信は足踏み状態だ。

 トレソーラ社長も務める原田俊明TBSメディア推進局長は、高コストの原因を(1)ネット配信の仕組みの未整備からくる煩雑な著作権処理(2)従量課金による高額な通信料(3)複製を防ぐための厳重な暗号化−−などを挙げる。「時代的に少し早すぎた。NTTが2010年までに3000万回線を光ファイバー化するという計画を立てたが、そんな時代になれば状況は違うかもしれない」と話す。

 現在、日本経済団体連合会でブロードバンド配信の際の著作権料の分配料率を決める作業が最終段階に入っているが、「料率が決まっても、ネットでの利用許諾について権利者との個別交渉は必要。利用するかどうかもわからないのに、契約段階でネット配信のために著作権料を上乗せすれば、すごいコスト高になる」と懐疑的だ。

 ただ、実際に利用許諾を取って作ったBSのミニ番組をトレソーラや携帯配信に利用したケースは、コストをかけずに使い勝手も評判もよかったといい、「こういうやり方はあるかもしれない。出演者は売り出し中の人に限られるが」と話す。

■■「好きなように見られる」時代

 一方、市場には新たなデジタル家電が次々投入されている。HDD(ハードディスク)レコーダーの急速な普及で、CMを飛ばして録画する「CMスキップ」機能が問題となり、日本民間放送連盟は昨年から対策の検討を始めた。

 昨年11月にはソニーが最高6チャンネルを1週間分まるごと録画できるAVレコーディングサーバーを発売し、事実上、地上波放送のオン・デマンド(見たい時に取り出して見る)を実現してしまった。これが普及すると「リアルタイム視聴を前提とした広告収入による無料放送」という民放のビジネスモデルが崩れかねない。

 また、地上波、BSのアンテナ、チューナーに加えてNTTなどが提供しているブロードバンドテレビに加入すれば、一つのテレビで地上波、BS、専門チャンネル、映画のビデオ・オン・デマンドまで利用することも可能。既に「何でも好きなように見られる」時代で、視聴者にとっては、コンテンツ内容がより重要になってきたといえる。

■■ビジネスモデル、再構築も不可欠

 倉沢治雄・日本テレビメディア戦略局次長は、大型のスポーツイベントなど「視聴が一度に集中するコンテンツが通信で流れるのは想像しにくい」としたうえで、「地上波で視聴率が低くてもDVDの売れ行きがいい番組もあるように、通信の世界ではニッチ(すき間)なニーズが高い。これからの番組は地上波の視聴率だけで測るのでなく、BS、CS、ネット配信などでの付加視聴者を見込んだビジネス展開があるのでは」と話す。

 コンテンツ流通に詳しい「ラーニングビジョン」の小沢真人代表は共著の「図解でわかるコンテンツビジネス」(日本能率協会マネジメントセンター)で、「インターネットが普及するネットワークの時代の次に、本格的なコンテンツの時代が来る」とし、「地上波放送局などは、コンテンツ制作者であると同時にインフラ事業者的な役割を担っている。この役割は、ネットワークの発達とともに分化していくことが予想される」と業界の再編を示唆。コンテンツビジネス発展のためには、テレビ局が著作権や流通を支配する構造から、米国のようにコンテンツの企画、制作から販売、分配までをトータルにプロデュースする「コンテンツプロデューサー」を育成し、制作会社中心のビジネスへの転換が欠かせない、と指摘している。

〔毎日新聞〕


■フジテレビと運命共同体 ライブドアの堀江社長


 ライブドアの堀江貴文社長は11日夜、都内の本社で記者会見し、ニッポン放送によるフジテレビジョンへの新株予約権発行を差し止めた東京地裁の決定に関し「フジテレビも(ニッポン放送の)大株主で、企業価値の向上では運命共同体だ」と述べ、引き続きフジ側に提携を呼び掛けていく意向を表明した。

 発行差し止めの仮処分申請が認められたことについて、堀江社長は「当社の主張が認められ大変うれしい」と評価。会見に同席したライブドア側の弁護士は「今回の地裁の判断は極めて重い。高裁で覆るとは考えておらず、基本的な戦術が変わることはない」と述べ、上級審で続く法廷闘争に自信を示した。

 堀江社長は、今回の決定がライブドアとニッポン放送との関係に与える影響について「(関係は)ちょっとだけ前進した。話し合いのテーブルについてもらえる可能性が高まった」と期待感をのぞかせる一方、「今後も市場でニッポン放送株を買い進める方針は変更ない」と言明。

 ライブドアとフジのニッポン放送株保有比率が高く、同放送の上場廃止の可能性が強まっていることには、上場維持する方向が望ましいとの考えを明らかにした。

 今後の経営スタイルに関しては「お金を使いたいところは使い、ハリウッドに負けないコンテンツ(情報の内容)を作りたい」と説明。その上で「世界で一番強いメディア、IT(情報技術)、金融のコングロマリット(複合企業体)を作りたい」と強調した。(共同)

 フジテレビジョンに対するニッポン放送の新株予約権発行差し止め決定が出たことについて、記者会見したライブドアの堀江貴文社長と新保克芳弁護士の一問一答は次の通り。

 −差し止めが認められた感想は。

 堀江社長「当社の主張が認められ、大変うれしく思っている。今後も市場でニッポン放送株を買い進める方針に変更ない。ニッポン放送との関係がちょっと前進した。話し合いのテーブルについてもらう可能性が高まった」

 −ニッポン放送は上場廃止の可能性が高まっているが。

 堀江社長「(フジテレビには)上場維持する方向で考えていただければと思っている」

 −ライブドア傘下になるとニッポン放送はフジサンケイグループとの取引が停止になる可能性もあるが。

 堀江社長「仮に取引停止になっても、大きな影響があるというふうには思っていない。しかし、現状維持して建設的な形でやっていく方がお互いのためにいい。フジテレビも(ライブドアと同じ)大株主なので、ニッポン放送の価値向上という意味では運命共同体だ」

 −地裁で勝ったことの意味は。

 新保氏「今回は地裁の商事専門部が判断しているので、極めて重い判断だ。審尋も二回行って論点も尽くしており、高裁で覆るとは考えていない。基本的な戦術が変わることはない」

 −フジサンケイグループへのメッセージは。

 堀江社長「日本発の世界で一番強いメディア、IT(情報技術)、金融のコングロマリット(複合企業体)を作りたい。放送のメリットを使って、これまで以上にお金もかけて良い作品を作っていきたい。まるで私がコストカッターのように言われているが、制作現場ではお金を使ってハリウッドに負けないようなコンテンツ(情報内容)を作っていきたい」

 −(フジテレビ系列の)関西テレビに業務提携を申し入れたのか。

 堀江社長「現状では業務提携に至っているわけではないが、テレビ局のリーチ(集客力)をうまく活用して、新しい事業を創出していこうと言っていた」

(共同)

〔産経新聞〕


2005.03.10

■京セラ、デジカメ事業から撤退

国内主要メーカー初のデジカメ市場撤退。低価格化で採算が悪化したためという。今後は携帯向けカメラモジュールに注力する。

 京セラは3月10日、デジタルカメラ事業から撤退すると明らかにした。現行モデルの生産を今夏をめどに停止し、年内をめどに販売を終了する。価格下落により採算が悪化したため。生産拠点は、携帯電話向けカメラモジュール事業に順次転換する方針。

 同社は昨年10月、「Finecam」など自社ブランドデジカメから撤退し、「CONTAX」ブランドに特化すると表明していたが、CONTAXブランドからも撤退することにした。製品の修理やサポートは続ける。

 「独特なデザインとカールツァイスレンズで高級感を出した『CONTAX』で差別化戦略をとってきたが、市場シェアは5%以下」(同社広報室)。低価格化が進んだため「ある程度のボリュームがないと採算がとれない」(同)とし、撤退を決めた。撤退後、CONTAXブランドは他社に売却すると一部で報じられているが、「まだ何も決まっていない」(同)。

 今後は携帯向け高機能カメラモジュールに注力。高画素・高倍率ズーム搭載光学モジュールなどの生産を強化する。

 銀塩カメラも、CONTAXブランドの高級モデルは「終息させる方針」(同)。年内をめどに、生産・販売を終了する方向で検討中とした。ヤシカブランドのコンパクトカメラは、中国や中南米、中近東でニーズがあるため、今後も生産・販売を続ける。

〔ITMEDIA〕


2005.03.08

■“孤独なカリスマ”堤容疑者 自分を犠牲、厳格な父に従属 「母守るため…」

 証券取引法違反容疑で逮捕された前コクド会長の堤義明容疑者(70)はかつて、「親という感覚があったのは、おふくろだけ」と、話したことがあった。「独裁者」「ワンマン」と畏怖(いふ)された経営者の顔とは裏腹に、このとき、堤容疑者は亡き母に思いをはせて涙した。そこには、正妻ではなかった母を守るため、厳格な父に従属し続けた葛藤(かっとう)があった。 

 昭和六十二年夏、東京・原宿の国土計画(現コクド)の本社応接室で、雑誌の企画のため、二時間半にわたって、堤容疑者は精神科医の野田正彰氏(60)のインタビューを受け、父母への思いを語った。

 野田氏は平成六年五月に出版した「経営者の人間探究−企業トップはいかにして創られたか」(プレジデント社)の中でも、堤容疑者を取り上げている。

 「おふくろは私がいることでおやじに評価されていた。だから、おふくろを守るために跡取りの道を選んだ」

 堤容疑者にとって父でグループ創業者の故康次郎氏は絶対の存在だった。「友達を持ってはいけない」「他の会社に勤めてはいけない」「自分の近くに対等な人間を置いてはいけない」。康次郎氏が何度も繰り返した言葉を甘んじて受け入れた。

 早大時代の事実上の後継指名で、“従属者”としての人生が、決定的となった。

 インタビューで堤容疑者は「生きるためだった。少しでも気に入らなかったら、おやじに捨てられると思った」とも語った。

 堤容疑者は康次郎氏の三男で、異母兄、異母姉がそれぞれ二人、実弟が二人いる。母の石塚恒子さんは康次郎氏の籍に入籍していない。東京で母、弟二人との生活が始まったのは、小学六年の時だった。

 野田氏がインタビューする三年前に、恒子さんは亡くなっていた。

 「私にとって親という感覚があったのは、おふくろだけでした」。インタビューで母の思い出に話が及ぶと、堤容疑者は目に涙を浮かべ、言葉を詰まらせた。そして、亡き母への思いを次々と口にした。

 「いまでも、おふくろのことを思うとジーンとする」「どんなに忙しくても、母と二人だけで会食する時間を作った」

 野田氏は「父が築いてきたものを踏襲するだけで、自分の人生などない。父が息子を完全に破壊した。唯一の自分らしさは母を守ることだけだった」と分析する。

 「自分のどこまでがおやじで、どこからが自分か分からない」とも堤容疑者は話していた。康次郎氏の死後も常に父の影を引きずった。「二代目は先代のコピー」と揶揄(やゆ)されることもあったが、「父の言う通りにしていればうまくいく」と考えていた。部下と距離を置いても皆が付いてきた。

 しかし、西武鉄道の小柳皓正(てるまさ)前社長が自殺した二月十九日。堤容疑者は複数の側近から“絶縁状”を突き付けられた。すべてが崩れ去った瞬間、泣き崩れた。

 「『自分は犠牲者。大して悪いことしてないのに何でこんな目に遭うんだ』と思っているのではないか」。野田氏は、司直の手に落ちた“孤独なカリスマ”の心情を察してみせた。

〔産経新聞〕


2005.03.03

■堤前会長を逮捕 東京地検特捜部


 西武鉄道株問題で筆頭株主・コクドによる名義偽装株の保有や、問題公表前の株の大量売却に主体的にかかわっていた疑いが強まったとして、東京地検特捜部は3日、コクドの堤義明前会長(70)を証券取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載、インサイダー取引)容疑で逮捕した。証券取引等監視委員会と合同で、西武鉄道とコクドなど関係先の一斉捜索に乗り出した。

〔朝日新聞〕


■西武鉄道、コクドの本社に捜索

 カリスマ経営者の失墜――。西武鉄道株の虚偽記載問題をめぐり、3日午前に証券取引法違反容疑で逮捕された西武グループの総帥で、コクド前会長の堤義明容疑者(70)。国内外に約170カ所のホテル、スキー場などを展開し、経営手腕を高く評価されてきたが、コクド元役員は「イエスマンの側近に囲まれた専制君主が終焉(しゅうえん)を迎えた」ともらした。埼玉県所沢市の西武鉄道本社や堤前会長の自宅などには、東京地検の係官が次々と捜索に入った。

 東京タワーの間近にある東京プリンスホテル。午前10時すぎ、一般宿泊客の目に触れない資材搬入口から、堤前会長が乗ったとみられる白いワゴン車が走り出た。カーテンが下ろされ、車内の様子はうかがえない。社員ら約10人が見送った。

 堤氏が乗っていたかを聞かれた社員は「それは言えない。察してほしい」とだけ答えた。

 埼玉県所沢市の西武鉄道本社には午前10時半すぎ、東京地検の関係者4人が、20分後には証券取引等監視委員会(SEC)の関係者25人が入った。すぐ近くにあるコクド所沢本社ビルにも、10時40分ごろ、SEC関係者16人が入った。

 2月、参考人として事情聴取を受けていた小柳皓正・前西武鉄道社長が自ら命を絶った。前会長逮捕を受けて同社幹部は、「捜査当局が早く立件していれば犠牲者は出なかった。これで西武グループが変わると信じる。『堤』色の一掃は、社内の改革委員会でなく、捜査当局という外圧じゃないと駄目なんです」と語った。別の幹部は「最近は社内でも『今日じゃないか、今日じゃないか』という雰囲気だった」と話した。

 グループ会社の男性社員は午前6時ごろ出社し、新聞各紙で「堤前会長に3日にも強制捜査が及ぶ」との記事を見た。社員の間では「ああ、やっぱりな」とだけ会話が交わされたという。

 グループ会社の元幹部は「自業自得。大学の後輩で周辺を固め、思い通り組織を動かしてきたが、堤家を守りきれなかった。そういう人たちを集めた本人の責任だ」と語った。

 「一つの時代の終焉だ」と西武鉄道の元幹部はみる。「下の意見に耳を貸さず、上ばかり見ている側近に囲まれ、なるべくしてなった。堤前会長本人はプライドの高い人だから『逮捕』を受け入れられるだろうか。昔は『西武に勤めています』と胸を張って言えたのに、残念だ」

〔朝日新聞〕


■西武グループ改革、脱「堤支配」加速か

 西武鉄道株に関する虚偽記載問題で、東京地検特捜部が3日、同鉄道・コクドグループの総帥、堤義明・前コクド会長を逮捕したことを受け、今後の同グループの経営再編・改革では、脱「堤支配」が加速しそうだ。

 すでに、西武グループ経営改革委員会(諸井虔委員長)が堤前会長のコクド株所有を通じたグループへの支配力を大幅縮小する案を示し、前会長もそれに従う意向を示している。

 堤前会長は、グループの事実上の持ち株会社であるコクド株式のうち、3分の1以上を保有する筆頭株主として、鉄道など100社超のグループ全体を支配してきた。改革委は、堤前会長によるワンマン経営がグループの統治をゆがめたと判断し、その支配力の低下をめざした再編案を打ち出している。

 この案では、現在のコクドを、堤前会長の資産管理会社としての「旧コクド」と、事業資産を継承する「新コクド」に分割し、持ち株会社としてのコクドを解体。そして、新コクドと鉄道、プリンスホテルの3社合併による新会社を発足させ、最大2000億円の大幅増資を実施。この結果、旧コクドによるグループに対する株式保有割合は1けた台まで縮小される見通しだ。

 堤前会長は昨年10月、鉄道の虚偽記載問題を公表し、コクド会長を含むグループ全役職を辞し、経営の前面から退いた。大株主としてグループへの支配力を維持するかどうかが焦点となったが、その後は、グループの実質的な経営判断をコクドの諮問機関、改革委が担った。堤前会長は2月末、改革委の再編案を受け入れる意向を表明。資本を通じた堤家によるグループ支配は排除される方向に動き出していた。

 西武鉄道は5月にも臨時株主総会を開き、後藤高志特別顧問(元みずほコーポレート銀行副頭取)を同社の新社長に選任。秋にも新会社の発足をめざす。

 改革委にはみずほコーポ銀など主取引銀行の意向が強く反映され、再編案も西武グループの「銀行管理化」の色彩が強い。だがグループ内からは大きな反発はなく、堤前会長の影響力温存を望む声も出なかった。その総帥逮捕によって、脱「堤支配」が一気に進む見通しとなった。

〔朝日新聞〕


■堤前会長きょう逮捕 カリスマ影薄く 「どうして彼が…」前社長自殺で急転、落涙

 「逮捕は自分だけにしてほしい」−。東京地検特捜部が証券取引法違反容疑で逮捕の方針を固めた堤義明前コクド会長(70)。昨年十月の記者会見以来、公の場から姿を消していたが、刻々と迫る捜査の手に、元側近らをかばう姿勢を見せているという。バブル期には米国の経済誌・フォーブスに「世界一の資産家」と認められるなど、各方面で栄華を誇った「西武王国」のカリスマ。最近は周囲に弱音を吐くなど、かつての面影はすっかり消えたという。

 「どうして彼が…」。二月十九日、西武鉄道の小柳皓正前社長の自殺の報を聞き、堤氏は人目もはばからずむせび泣いた。小柳前社長は旧運輸省時代の交通行政の実績を買われ、堤氏自らが西武鉄道役員に迎えただけに、「これまで見たこともないほど取り乱し、相当な責任を感じているようだった」(知人の一人)。

 昨年十月十三日、堤氏は有価証券報告書虚偽記載を公表。全役職の辞任を表明し、公の舞台から姿を消した。以降、連絡は代理人弁護士と側近の元役員など、ごく一部に限られた。

 今年一月中旬には、体調を崩して慶応大病院(東京都新宿区)に入院。前立腺の持病が悪化し手術を受けたとされる。

 一方で、堤支配からの脱却を図る西武鉄道グループ経営改革委員会の動きに反発。退院後、西武鉄道特別顧問に就任した後藤高志前みずほコーポレート銀行副頭取と、二度にわたって正面から向き合い、議論を交わした。

 しかし、グループへの関与に固執した堤氏は、小柳前社長の自殺を機に姿勢を一転させた。

 「もう、あなたには付いていけない。今までのようなやり方では生き残れません」。二月十九日夜、複数の側近らが堤氏のもとに押しかけ、“三下り半”をたたきつけたという。逆らうことなど絶対にあり得なかった身内の造反劇だった。

 その翌日、長年の友人で、ともに再編案に反対していた代理人弁護士を解任。同二十五日には大野俊幸コクド社長を通じ、再編案受け入れの声明を出した。親子二代にわたるグループ支配に自ら終止符を打った形だった。

 堤氏は周囲に「もう、まな板の上のコイだ」と話し、二月二十二日から複数回、都内のプリンスホテルで東京地検特捜部の事情聴取を受けた。

 関係者らによると、聴取に対し「経営トップとしてすべての責任は自分にある」と認めた上で、「部下は私の意向に従っただけ。逮捕するのは自分一人にしてほしい」と述べたという。

 別の関係者は「最近はげっそりやつれ、心神耗弱気味で、以前のような論理的な思考ができていない。肩で風を切っていた数カ月前とは別人のようになった」と話す。

 「自分のどこに間違いがあったのか」。こう自問する日々が続いているという。

〔産経新聞〕


2005.03.01


出戻りラッシュVol.54

国家の指導者達も、実質国家の屋台骨を支えている官僚達も、日本の経済を支える財界人達も、やがて100億からの世界人口増加とさらに少子高齢化が加速していく、また資源の枯渇と地球環境破壊に歯止めのかからないこれからの国際社会情勢下において、相も変わらず既に伸び切ってしまったゴムひもをさらに無理矢理伸ばそうとせんばかりのさらなる盲目的な経済発展を叫び、日々の国家の迷走的舵取りと既存の諸問題の解決をなおざりにしているあらゆるツケを将来に先送りし続けるばかり、まさに倒産間近の深刻な赤字企業の末期的在り様そのものであると言えます。

それよりもさらに始末が悪いことに、私達国民の税金という謂わば尽きないキャッシュフローにより、一般企業にとってはありえない乱脈赤字経営の実体が表面化しづらく、おまけにその責任をとるべき責任者が実はどこにも存在していないという恐るべき実情なのです。(続く)