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2006.08.27 | ■フリーターの正規採用、88%が消極的…経団連調査
日本経団連は、2006年春闘など雇用に関するアンケート調査の結果をまとめた。 それによると、「人材不足」と答えた企業の割合が前年の26・3%から40・3%へと増加したが、「フリーターの正規従業員としての採用」には、88・3%が消極姿勢を示した。 春闘では、全員の一律賃上げにつながらない「ベースアップ以外の措置」を定昇と併せて実施した企業が13・8%に上るなど、賃金決定方式の多様化が進んでいることを示している。 調査は経団連会員企業など2149社の労務担当役員などを対象に、今年6月に実施し、560社から回答があった。 〔読売新聞〕 |
2006.08.25 |
■企業会計、欧に接近 「国際基準」のEU市場締め出しも 日本の企業会計基準を、欧州などの約100カ国が採用する「国際会計基準」と共通化する作業が待ったなしとなっている。日本企業にとって、欧州の資本市場の魅力は資金調達の手軽さだが、欧州連合(EU)は09年から域外企業にも国際基準に沿った情報開示を義務づけるため、日本企業が欧州市場から締め出されかねない状況になっている。この「会計09年問題」に危機感を強める日本経団連は今秋、御手洗冨士夫会長が訪欧し、EU側との話し合いを本格化させる。(江渕崇) ●共通化の作業急ぐ 民間決定機関 金融庁の企業会計審議会は7月末、会計基準を決める民間組織「企業会計基準委員会」(ASBJ)に対し、国際基準との違いを縮める「工程表」を、今秋までに作成するように求める意見書を出した。7月に閣議決定した「骨太の方針」は「会計基準の国際的な収斂(しゅうれん)の推進を図る」との文言を盛り込んだ。 動きが慌ただしくなったのは、欧州連合(EU)側が6月、日米の会計基準について国際基準との共通化がどの程度進んだかを08年初めに評価する、と表明したためだ。 ●26の重要な違い EU側は今の日本基準について「全体としては同等」としながらも、26項目の重要な違いがあると指摘した。 このままでは、EU市場に上場する日本企業は09年以降、日本基準に加え国際基準でも財務諸表を作る必要が生じ、大きな負担になる。 欧州の証券市場は、日本企業にとって社債発行や株式上場の条件が緩い。比較的楽に資金調達や知名度向上を狙える「ありがたい存在」(電機大手)でもある。米国市場が米国基準の財務諸表しか認めないのに対し、EUは補足的な情報開示をするだけで日本基準も容認してきたからだ。 株式は欧州での取引が細ってきた。このため、最近も東芝や日立製作所など欧州での上場廃止を決める動きが相次ぐ。だが、社債による資金調達は底堅く、ここに支障が出ると影響は大きい。 日本基準がEUで受け入れられなくなると、世界でも異端の扱いになる可能性もある。「日本基準の信用やブランド力が国際的に著しく落ちる」(野村証券投資調査部の野村嘉浩次長)という懸念が浮上している。 ●経団連が危機感 日本経団連は「日本基準だけが乖離(かいり)すれば、国際ビジネスを展開する企業の活動を妨げ、日本市場や企業の信頼性低下につながる」との声明を発表、会計基準の共通化を急ぐべきだとしている。御手洗会長は今秋の訪欧でEU首脳らと会談し、日本基準を引き続き認めるよう求める見通しだ。 会計基準の国際的なすりあわせでは、米国とEUが急接近しており、日本の産業界の焦りを誘っている。EU市場では米国基準も日本基準も容認されてきた半面、世界最大のニューヨーク株式市場など米国では日本基準も国際基準も認められてこなかった。 しかし、国際基準が欧州のほかカナダや中国など世界各地に広がる勢いを見せるにつれ、米国はEUに歩み寄りつつある。国際基準を作る国際会計基準審議会(IASB)と米国側は02年から調整協議を重ねている。米国とEUは09年をメドに互いの会計基準を受け入れる方針を確認し、今月2日に相互承認に向けた共同作業に着手すると発表した。 一方、日本は国際基準に対し「時価会計の徹底など発想が急進的で、実務への配慮が足りない」(企業会計審委員)と拒否反応が強かった。ASBJがIASBと会計基準の調整に向けた本格協議に入ったのは05年で、共通化への道筋もはっきりしていなかった。 ●調整難航項目も 今後の共通化では、企業社会に対する基本的な考え方に根ざす項目での食い違いは調整が難しそうだ。例えば、企業の経営統合をめぐる会計処理。日本基準は財務諸表を簿価のまま統合する対等合併を一部で認めているが、国際基準は対等合併を認めず、買収―被買収の立場を明確にするよう求めている。 ASBJの斎藤静樹委員長は「より高品質な会計基準を目指し、速やかに基準改革を進める」として、共通化の作業を急ぐ考え。「無条件に国際基準を採用することはない」ともいう。ただ、米欧間の急接近などで「外堀」が埋まりつつあり、日本側の対応の余地は狭まっている。 ◆キーワード 〈国際会計基準〉 国際財務報告基準(IFRS)とも呼ばれる。投資家保護や企業の国際的な資金調達を促すため、国ごとに異なる会計制度を統一しようと、ロンドンに本部を置く国際会計基準審議会(IASB)が策定している。英国基準を原型とし、英米出身者が開発を主導しているが、EUが05年に本格採用したことで一気に普及し、現在約100カ国が使う。 〔朝日新聞〕 〔朝日新聞〕 |
2006.08.21 |
■(世界経済リポート)IT躍進、ホテルも高騰 インド 経済大国として台頭するインド。海外からのビジネス客がまず驚くのがホテル料金の高さだ。大都市のホテルは、パリや東京などを上回って世界最高値の水準。急成長にひかれて外国企業がどっと押し寄せ、ホテルの供給が追いついていないからだ。経済のリード役である情報技術(IT)産業が、米IT企業と二人三脚で躍進していることも影響している。「IT立国」のホテル事情を追った。(バンガロール=小暮哲夫) ●旅行者増え、供給不足 「1位バンガロール299ドル(約3万5千円)、2位ハイデラバード268ドル……6位デリー195ドル……」。地元の有力英字紙に4月、こんなランキングが載った。 ●世界最高値 米国務省が、米外交官が使う世界各都市のホテル料金に順位を付けた。トップ9のうち6都市をインドが占めた。他では3位がパリとロンドン、東京は8位だった。 インド政府によると、人口1380万人のデリー首都圏と680万人のバンガロールの客室数は、04年末でそれぞれ約1万室と約2700室。1270万人の東京都の約8万7千室(04年)に比べて少なさが際立つ。 インド経済は91年の自由化政策後、急激に伸びた。8%前後の成長が続くここ3年は、中国と並ぶ経済大国として脚光を浴び、ビジネス客を含む外国人旅行者が急増。02年度までの5年間の年250万人前後が、04年度は360万人に達した。 ところが、ホテルの供給が追いつかない。料金は急騰。国内全体の平均客室単価は、00年度の2046ルピー(約5千円)から、04年度は3413ルピーに跳ね上がった。 デリー首都圏は「1万室が不足」との見方もある。デリー開発公社は今年、ホテル用の土地の競売を始めた。これまでに競売で計9カ所が落札。1万平方メートルの区画が予定価格の3倍の約20億ルピー(約50億円)を付けた。 ●1泊450ドルも 「世界で最もホテル料金が高い都市」と認定されたインド南部の都市、バンガロール。当地では最高級ホテルのリーラパレスは1泊390〜450ドルもするが、全256室の稼働率は年平均で90%。「4年前から需要が急に増えた」とスニル・プラバカル販売市場調査部長。 バンガロールは「インドのシリコンバレー」と呼ばれ、多くの米IT企業が進出している。「世界2位」のハイデラバードも有数のIT都市だ。 インド経済を先導しているIT産業の05年度の売上高(推計)は363億ドルで、5年前の3倍。国内総生産の4・8%を占める。米企業のソフト、サービス開発を請け負うなかで成長し、これがホテル料金の底上げ要因になっている。 リーラパレスでは現在、IBMなど約100社が「年間で計1500〜2千室を優先利用できる」という契約で客室を押さえる。「現地での交渉のための出張は避けられない。幹部用の部屋を確保するには、年間契約が好ましい」(米IT企業のインド法人幹部) その結果、客の7割が外国のビジネス客で、うち4割が米国人。プラバカル部長は「市内に10ある高級ホテルはどこも似たような契約を結んでいると思う」と認める。 中長期滞在客向けのサービスアパートもIT企業が確保。中心部のトライスターアパートは25室のほとんどを企業の半年以上の契約が占める。 ●成長市場狙い外資参入 政府の統計では、国内のホテルは04年で1900軒弱で計9万8千室。インドホテルレストラン組合連合会によると、04年度のホテル1軒当たりの平均売上高は1億1490万ルピー(約2億9千万円)で、前年度を2割以上上回った。 成長市場を狙い、海外有名ホテルチェーンの開業計画が話題に上る。 ニューデリー中心部に昨年9月オープンしたシャングリラホテル。世界で49ホテルを展開する同チェーンがインドに初進出した。「中国と並び業務拡大が見込める」とアンドリュー・キンラン支配人。ビジネス展示会が集中する2月の稼働率は90%に達した。 バンガロール市内ではヒルトン、ハイアットなど有名ホテル6、7社が開業を計画している。 対照的に、手頃な価格の宿泊施設の人気も高まっている。インド経済の懐が深くなっていることを反映している。 バンガロールの産業地区にあるジンジャーホテル。1泊わずか1千ルピー(2500円)。04年6月の開業以来、85〜90%の稼働率を誇る。サービスを絞る一方、ビジネス客が求める設備は備えた。インターネットはどこでもモバイル接続が可能。 カルペシュ・パテル支配人は「人々は安くて清潔なホテルを求めている。日本のビジネスホテルも参考にした」。年内に国内10市、来年は30市でオープンを計画する。 〔朝日新聞〕
コンピューターシステム大手の日本ユニシスは、パソコンなどの商品を扱うインターネット上のオークション(競売)で、売り手と買い手の双方が価格を提示して売買を成立させる国内初のシステムを開発した。10月からIT関連の新興企業がサービスを始める。 現在のネットオークションでは、売り手の出品物に対して複数の入札者が価格を提示し、最高額を出した者が落札している。 これに対し、日本ユニシスが開発した新システムは、売り手が売りたい商品と価格をネット上に提示して買い手を募る機能に加え、買い手が欲しい商品と価格を提示して売り手を募り、条件が合った相手と売買を成立させる機能もある。証券取引所で株式売買の注文を付け合わせる方法と似ており、「ダブルオークション」と呼ばれるこの方式で一般商品向けのシステムが開発されたのは国内で初めてだ。 新システムでは、売り手と買い手の価格に開きがある場合には、一方が歩み寄って売買を成立させることもできる。需要と供給に見合った、より透明な価格形成が期待できるという。 ダブルオークションのサイトは新興IT企業「E―RA(イーラ)」(福島県会津若松市)が運営する。売り手は同社の審査に合格した小売店やメーカーなどの法人で、買い手には法人のほか個人も参加できる。 オークションの対象には、発売開始後、一定期間が経過した新品を想定している。取り扱い商品は、パソコン関連から段階的に薄型テレビなど家電製品へ広げ、年内3万点、数年後に10万点、年間取引額500億円を目指すという。 〔読売新聞〕 |
2006.08.20 |
■雑誌、立ち読み感覚のサイト・タグボートと電通 広告企画制作ベンチャーのタグボート(東京・港、岡康道社長)と電通は、インターネットを使って雑誌を立ち読み感覚で一部閲覧できる無料サイト「magabon(マガボン)」を21日に始める。ネット利用者に記事情報を部分的に提供することで、雑誌販売を増やす狙い。 講談社や光文社など30社以上の国内出版社が参加する予定。各社が発行する女性誌、男性誌、生活情報誌、娯楽誌などの最新号を発行日前日から順次掲載する。当初は約60誌の情報を掲載、今秋をメドに100誌以上に増やす計画だ。 〔日本経済新聞〕
中国、韓国などアジア諸外国の優秀な人材に、日本企業にもっと入ってもらおうと、日本の大学で学ぶ留学生への無償奨学金制度を07年度から経済産業・文部科学両省が始める。大学・大学院に、採用意欲のある企業と提携して、留学生向けの専門講座やビジネス日本語講座などの2年間の特別コースを新設してもらい、その受講生1人あたり、住居費分、学費免除分、生活費など月計20万〜30万円相当の支給を検討中だ。支援対象は約2000人を想定している。 特別コースは企業の中核を担える人材の育成が目標で、電機・IT業界、環境関連産業など特定分野の企業群と提携し、それらのニーズにあった専門性の高い授業を想定。また、留学生の日本企業就職率が伸びない理由となっている、日本語の力不足や企業風土の特徴をあまり知らないことなどを解消するため、特別コースには実用性の高い日本語会話の授業や日本の企業文化などを教える授業のほか、インターンシップ制度も盛り込んでもらう。両省が授業内容を審査し、奨学金制度を適用するかどうか決める。 両省は関連予算として07年度予算の概算要求に約60億円を盛り込む方針。この中には、同じ目的で、既存の国費留学制度を使っている留学生らが無料参加できる就職支援プログラムも加わる。 経産省によると、04年度は約3万人の留学生が日本の大学・大学院を出たが、日本国内で就職した留学生は約5700人にとどまった。留学生支援策の拡充で、アジアの優秀な人材の定着を増やそうとしている。 〔朝日新聞〕 |
2006.08.17 |
■外国人実習生、低賃金で酷使 雇用側の不正増加 日本の技術を学ぶ目的の外国人研修生や技能実習生に対する雇用主側の不正行為 ●今年125件、トラブルも 同省では、02年ごろから、研修・実習生に対して申請外の企業・職場で働かせる「名義貸し」や、実習生に残業代時給300円程度の最低賃金以下で働かせる「違法雇用」など雇用主側の不正行為が顕在化してきたとみている。同省の不正認定件数は、03年が92件、04年が210件、05年が180件、06年(7月末現在)は125件。入管関係者は「高止まりし、減少に転じる状況にない」とみる。 実習生が労基署に駆け込むケースも相次いでいる。茨城県は、05年度に農業分野での実習生移行を申請した全国約2800人のうち、約1200人と最多だ。労基署には、昨年末から今月16日までに、実習生計9件28人が「違法雇用」を訴えてきた。1月には、最低賃金との差額分を支払うよう求める実習生9人と農家が労基署で対立。「払ってくれるまで帰らない」と主張する実習生が労基署に約6時間居座る騒ぎになった。労基署の調べでは、残業代が時給350円で、同県の最低賃金の651円を大きく割り込んでいた。 研修制度は当初、海外に進出した企業などが対象だった。90年には海外に接点のない中小企業が研修生を1年間受け入れられるように改正。93年には、研修後に研修先と雇用契約を結び、残業もできる技能実習制度を新設し、現在では最長2年の技能実習ができるようになった。 その結果、研修生の新規入国者数は90年の3万7566人から05年は8万3319人と急増。実習生への移行者も93年の160人から05年は3万2394人に激増した。 雇用主側の不正行為が増加する背景には、デフレ経済や、海外との競争で人件費の圧縮が急務だった繊維や農業などでの受け入れ数が増えていることがある。 同省の「今後の外国人の受け入れに関するプロジェクトチーム」は5月、中間まとめに研修・技能実習制度を改編し、一定要件を満たせば労働者として受け入れる案を盛り込んだ。日本経団連も、実習期間の延長や対象職種拡大など、政府に規制緩和を求めている。 ◆キーワード 〈外国人研修・技能実習制度〉 外国の労働者を国内に受け入れ、技術などを習得してもらう制度。研修生の行う作業は「実務研修」とされ、生活実費として研修手当が支払われる。しかし「労働」ではなく、就労、残業は禁じられている。一方、実習生は研修先と雇用契約を結んで就労。労働の対価として賃金が支払われ、残業もできる。 〔朝日新聞〕 |
2006.08.10 |
■東京で10分働けばビッグマック1個 世界70都市でトップ 東京では10分間働けばマクドナルドの「ビッグマック」が買える――。スイスの大手金融UBSグループが、世界各国でビッグマック1個を買うのに必要な労働時間を調べた06年の調査で東京が最短となり、最も豊かという結果が出た。最長のコロンビアの首都ボゴタは97分間で、東京の10倍近い。 世界の主要70都市のモノやサービスの価格、賃金などを比べる調査で、3年に1度実施している。世界中で買え、価格差も小さいビッグマックを「指標」に採用。各都市ごとに、ビッグマックの価格を、様々な業種の平均的な時給で割って「豊かさ」を算出した。日本でのビッグマックの価格は95年以降、280円で変わっていない。 70都市の平均は35分。東京に次いで豊かだったのは米国の主要都市で、ロサンゼルスが11分、シカゴとマイアミが12分、ニューヨークが13分だった。 〔朝日新聞〕 |
2006.08.09 |
■若年層の収入格差が拡大…労働経済白書 厚生労働省は8日、2006年版「労働経済の分析」(労働経済白書)を発表した。 雇用契約期間が短い非正規雇用などの増加により、20代の若年層を中心に収入の格差が拡大していることが明らかになった。白書は、収入が少ない若年層が増加したことが結婚の減少につながり、少子化を促進させていると分析。少子化対策の観点からも若年層雇用の安定が重要だと強調している。 06年1〜3月期の15歳〜34歳の非正規雇用者数は595万人で、前年同期比34万人増だった。これに対し、正規雇用者数は19万人減の1248万人。03年と比較すると、非正規雇用者数は53万人増加した。最近の景気回復で雇用環境はよくなっているものの、依然として若い世代を中心に非正規雇用は増加傾向にある。 非正規雇用の増加が収入格差につながっていることも浮き彫りになった。近年の雇用状況の分析はまだ続いているが、働く20代のうち、年収が150万円に満たない低収入層は02年は21・8%と、1992年より6・5ポイント増加した。これに対し、年収500万円超の層は3・2%で0・3ポイント増、そのうち700万円超は0・5%で横ばい状態で、総じて収入格差は広がっている。 20〜34歳で配偶者がいる割合を雇用形態の違いで比較すると、正規雇用と比べて「非正規雇用」がほぼ半分、「パート・アルバイトなど」は約3分の1にとどまった。収入が少ないことが、結婚の障害となっていると見られる。白書は「少子化の主因は若年層を中心に配偶者がいる人が減ったこと」と分析している。 一方、大手製造業に勤める大卒の男性社員の賃金の分析では、能力・成果主義による評価が定着してきたことで、30代〜40代にかけて賃金格差が拡大する傾向が見られた。 白書では、正当な能力や業績評価に伴う賃金格差の拡大については、「労働意欲を高める」と評価しながらも、人件費抑制を目的とした若年層の非正規雇用増加に関しては、「長期的・継続的視点を欠く」と厳しく批判している。 〔朝日新聞〕 |
2006.08.01 |
私の父は中国の社会主義革命で全財産を没収されたうえ、その後も長期間にわたって迫害されていました。しかし、父は亡くなるまで革命に反対するようなことを言ったことがありませんでした。「富む人が酒池肉林のような生活をする一方、毎朝のように街角に餓死体が横たわっている社会は無くすべきだった」。これが父親が革命を擁護する理由でした。 社会の格差が多くの食べて行けない人達を生み出すと、たとえその社会がどんな立派な主義主張をもっていても改革もしくは革命が必要になります。 最近、日本では社会格差の議論が盛んです。しかし、世界中を歩いてみても東京はたぶんホームレスが少ない街に入ると思います。世界中の貧困層を比べてみてもおそらく日本の貧困層は一番薄く、そもそも「貧困」のレベルも同等ではないと思います。 ある日、NHKの特集をみました。町から車で1時間以上離れた森に住みたいという人がいました。住みたい山奥に住みながら子供達を町の学校に通わせるために彼は町にスクールバスを出してほしいと言いました。山を降りて町の近くに住むようアドバイスしましたが、それを断った彼の一家のために町はとうとう専用のスクールバスを出しました。町が負担した年間費用は200万円でした。 日本は地上で最も社会主義が成功した資本主義国です。「搾取と貧困を無くし平等な社会を」。私は生まれ育った中国でそんな社会主義の理想を教育されてきましたが、中国ではなく日本にその理想が実現されていると思います。大企業の社長の年収も多くは4000万―5000万円程度でしょう。新入社員のせいぜい10数倍前後だと思います。 金持ちが増えたとはいえ、日本の金持ちはお金があっても金持ちらしいサービスを受けられません。受ける方は後ろめたさがありますし、提供する方は対等意識が強すぎて仕事になりません。 知人の経営者が外国人の奥さんと結婚し、家政婦を募集したところ、面接に50代の女性が来ました。相性と意欲を確認しようとしたのですが、その前にこの女性に散々説教されたそうです。「まだ若いんだから子供を自分の手で育てないとだめよ」と・・・。 コンビニの店員にたどたどしい日本語を話す人が増えました。スーパーのレジにも外国人店員が増えました。もちろん、各種労働現場もそうです。ほとんどの場合、日本人の若者が仕事内容や給与を理由にその仕事に手をつけないから、経営者がやむを得なく外国人を雇っているのだと思います。 上に行けないが、下にも行けない。格差を批判するが、共産党ではなく自民党を支持する。いったい日本の格差は本当に酷いものなのでしょうか。判断は読者の皆様に任せたいと思います。 「お金は寂しがり屋」ということわざがあるように、富裕層の形成は富の自然原理であり、時間のマジックです。最初は大差がなくても時間が経てば経つほどその差が大きくなっていきます。 そんな過去数十年の蓄積の結果を、さもこの2、3年の改革のせいのように捉えるのは短絡過ぎると思います。製氷機の中の氷は蓋を開けた時にできたものではありません。時間をかけてできたものが蓋を開けたときに見えただけです。 チャンスの平等を保証する以上、必ず結果の不平等がもたらされます。結果の平等にこだわる以上、必ずチャンスの不平等が必要です。いくら努力しても普通の生活ができない社会は悪ですが、いくら努力しても普通以上の生活ができない社会も悪です。前者は資本主義の悪であり、後者は社会主義の悪です。 「出る杭が打たれる」とはまさにこの後者の悪です。あまり打つと「杭」達は日本の中に沈没するか、日本から出て行くかの選択をしてしまいます。どれも日本にとって損失です。 金持ちから税金を多く取り、食べていけない人を助ける。そのかわりに他人の財布の中身を気にせず、チャンス平等の結果を受け入れる。人生の価値はお金ではなく、独自の幸福感で計る。適切な格差を許容する社会こそ大人の社会だとは思いませんか。 -筆者紹介- 〔日本経済新聞〕 |