■□■創刊号■□■
<<CONSIDERATION>>
21世紀に向けて世界は、大きな変革の時代を迎えてもう久しく、様々な試行錯誤が重ねられつつも、私達はまだ変革にあたっての明確な方向性や方法論を示せずにいます。それは、これまでの方向性や方法論に固執するあまりに、環境の変化に対応しきれずにいることが大きな要因の一つであると私は思います。
経済成長やそれに伴う技術革新は、私達の生活を豊かにそして便利にもした反面、貧富の格差や環境破壊など様々な問題をも増長させてしまいました。冷戦時代が終わっても世界のあちらこちらに残る紛争や不均衡など様々な不穏な要素も目立ちますが、希望的観測としては、このところの世界の潮流である民主主義ならびに自由競争資本主義社会は、これまでの成長の過程から成熟の段階を迎え、21世紀においてはさらに大きな世界の潮流となっていくことでしょう。
成長の過程と成熟の段階では、根本的に環境自体が異なっているのですから、成長の過程で適合していた方向性や方法論は、成熟の段階では適合しないというとても単純な事実をまず認めることなくして変革の時代に対応していくことなどできるはずがありません。
いつまでも過去の記憶にとらわれて、新しい発想による方向性と方法論の見直しができずに急速に衰退していく多くの国家や企業の存在と同時に、長期的で多角的かつ客観的な視点での実効性の高い展望のもとに急速な発展を続ける国家や、これまでのやみくもに利潤を追求し、規模の拡大に終始する企業の在り方を改め、社会性豊かな事業計画や健全な適度な成長をはかろうとする予算計画を持つ成長企業も増え続けており、成長業種の変遷、新旧の交代や強者と弱者の逆転などがめまぐるしく続いており、明日の状況はほとんど誰にも判らないような今日の社会と経済の情勢です。
日本においても、衰退はもちろん倒産などありえないと考えられていた大企業が次々と倒れ、銀行すらも倒産し、国家は膨大な将来への負債を抱え、高齢化社会に向かい、現代を生きる私達は、何ら確かな絶対性は存在しないことを知って不安要素ばかりが蔓延する中、消費を抑えて貯蓄に勤しみ、そしてまた経済は衰退するという悪循環から脱却できていません。
強者は強者同士統合や合併を形振り構わず繰り返し、弱者の多くは吸収されるか市場から強制排除されています。企業の体としては独立した会社であっても、実際は大企業の子会社であったり、系列であるような会社は真っ先に排除の対象となりますし、中小企業はもちろんのこと大企業においてもリストラの嵐が吹き荒れています。
政府は旧態依然とした効果の出ない形ばかりの経済対策を続けながら、「もう景気の底打ち」、「今後は上向く」などの日和見発言を繰り返すばかりです。たとえ若干の景気の変動はあるとしても、もはやこれまでの延長上の将来には、私達が安心して暮らしていける社会は存在しえないと私は考えています。
今日の社会を私達が創り上げてきたように、明日の社会を創り上げるのもまた私達自身なのです。
まずは私達一人一人が個人としての意識を変革すること、一見最も遠回りな方法のようですが、実際にはこれが一番の近道ですし、またそうした自己を確立し成熟した個人が存在しないところには、真に成熟した民主主義や自由競争資本主義社会も存在しえないのです。
今後の新しい方向性や方法論を策定するためには、まずは過去から現在における問題点の正確な認識をすることが必要です。キーワードとしては、相互理解と相互尊重、経済構造からの抜本的改革、同業者間の共同投資、異業種間ネットワーク、組織と個人の関係の見直し、ブレイクイーブンの経営、系列からの脱却、社会性と公共性、社内起業、IT関連設備投資と電子商取り引き、在宅勤務、退職者の再雇用、個人事業、市場解放、外国人雇用、途上国への進出、税制改革と共通化、競争の敗者の救済と弱者の支援、土地と住宅対策、高齢者対策、教育改革、軍縮、環境対策・・・・・、枚挙にいとまがありませんが、今後これら一つ一つの問題を順次取り上げていきながら、掘り下げて考察していきたいと考えています。
<<EPISODE>>
[Success file #1] 〜積極的かつ主体的なリストラ対策〜
もう5年ほど前の案件ですが、ある不動産会社が年々マイナス成長を続け、一部資産の売却や関連会社の整理などによる事業規模の縮小と従業員の約30%のリストラを余儀無くされていた状況で、もともとその会社の社長とは学生時代からの友人であった私は、当初プライベートな場面で彼の愚痴を聞いた際に、あれこれと思ったことを友人として遠慮なく話したところ、正式に依頼をするので会社の再建を手伝ってほしいとの申し入れを受けて、以下のようなドラスティックな再建プランを立案し、それから約1年の期間をかけて実行に移しました。
再建プランの概要は、
1.数名の取締役と従業員を残した他全社員を規定の退職金の120%を支給して一旦解雇し、従業員は年俸制での外部委託契約(この場合は、それまでの賃金の150%相当額にての契約とする)、あるいは新たに設立をする人材派遣会社にて改めて採用をする(この場合は、それまでの賃金の70%に相当する金額での契約)といういずれかの希望する契約を選択する。また希望退職者には、雇用保険とは別途に半年間それまでの賃金の50%の再就職支援金を支給する。
2.本社ビルは売却、社長の本社近くの別宅を改装し移転をする。登記変更により、業務内容を投資顧問業務主体とする。資産の相当額を処分して借入金を全額精算、すべてを一括にて償却する。不採算部門は整理して、成長が見込める部門に戦力を集中する。
3.いくつかの新会社を設立あるいは既存の会社を買収し、新規事業を立ち上げ、外部委託契約者の相当数をそれらの実務に振り分ける。
4.総務や経理などの部門を本社にまとめて、新体制におけるすべての関係会社を集中管理する。
というものでしたが、まさにそのプランを実行に移していく一年間は、日々ドラマの連続でした。
全員に再建計画の主旨を浸透させるためだけで、何度も説明会やレクチャーを開いて約3ヶ月の期間を要しましたし、日々不測の事態が生じては全体のスケジュールに遅れが出たりと、とてもここで詳述できないほど様々な出来事の連続でした。
計画推進当初の段階で、自ら退職していく従業員が相当数出ましたし、逆に気心の知れた仲間同士で退職金を資本金として共同経営の会社を主体的に設立しようというような動きも並行していくつか持ち上がりました。事前に予想していた外部委託契約希望者が30%、人材派遣新会社に70%という割合も、蓋を開けてみたらほぼ逆転していたりと様々な不測の事態が生じて、常に再建プランの全体もしくは一部を調整し修正し続ける必要がありましたが、紆余曲折の結果一部に問題点は残しはしたものの、再建プランは全体としては大成功に終わりました。
この再建プランを成功に導いた最大の要因は、従業員の大多数に自立意識を当初の3ヶ月のレクチャーで植え付けることができたことと私は認識しています。社会や組織に従属することから脱却し、自らの判断の基準と自己責任による決断、独立した一個人としての自らを確立したうえで、社会や組織との対等な関係を構築していくことの重要性といったことが、以前の高度経済成長の過程では理解認識できなかったかもしれませんが、成長のピークを迎えて行き場を失った日本の経済構造自体の改革の必要性はすでに当時世間で取り沙汰されていましたし、何よりそれまで急成長を続けてきた自らの会社が衰退をしているという現実に直面して、それほど何らの抵抗意識もなく自己の意識改革が無理なく可能だったように思われました。
再建プランに沿って既存の組織再編、ならびに新会社設立と既存会社との提携や買収を進めていく過程で、従業員達の生産性と効率性は以前よりもずっと向上しましたし、1年が過ぎる頃には、すでに新会社の業務はほぼ軌道に乗りつつあったほどのスピードでした。特に従業員が自らの資本を投下して、経営者としてリスクしていたいくつかの会社が牽引役となって、グループの中で立ち上げに失敗した会社や部門を統合し、2年が過ぎる頃には、もはや不採算会社や部門は、グループの中から消滅してしまいました。
グループといっても、世間一般の形態のようにすべてがお互いに資本関係を持つわけではなく、一部の子会社を除いた個々の会社は資本と経営両面でそれぞれ独立しているわけですから、グループ内での協力関係による収益と個々の会社の外部での独立した業務を並行して推進することにより、最近ではそれらの会社の業績がもともとの不動産会社のそれを大きく上回ってしまうという皮肉な状況にまで発展してきています。
それらの会社のとても活気に溢れるトップ達に最近お会いする度に、私は彼等が明日は我が身と気付いて、自分達が辿ってきたと同じ過ちを繰り返さなければよいがと考えてしまいます。興るものは必ず亡びるのですし、急速に成長するものは、急速に衰退する、これは自然の摂理なのです。企業は永遠なりと言われますが、現実には永遠たれるような企業が果たして存在しうるのでしょうか。こんな根本的な命題から明日の資金をどう調達するかなどという基準まで、今後このWhat's Cool Business!?では企業の活動全般にわたって幅広く考察していきたいと考えています。