■□■第2号■□■
<<CONSIDERATION>>
今回から数号にわたって、ビジネスを最も根源的な基準から考察してみたいと思います。
ビジネスは、需要と供給のバランスゲーム
ビジネスとは、需要と供給のバランスです。これは鶏と卵のような関係で、需要があるところに後から供給が生まれることがどちらかと言えば一般的でしょうが、その逆もありき、供給が先に生まれてその効果的な宣伝などにより後から需要が生まれることもあります。
先にまず需要が見えていれば、供給をしようとする人も必然的に増えてそこに競争も生まれますから、よほど大きな需要がそこにない限りはなかなか収益性の高いあるいは規模の大きなビジネスは育ちにくいと言えます。高齢者を対象とした福祉や介護などのシルバービジネスが一つの好例ですが、現状大きな需要があってそれは誰の目にも明らかですし、ましてや今後さらにその需要は急速に拡大していくことが見込まれているのですから、参入しようとする人達も増加するのは当然のことです。しかし供給が増加すればそれだけ競争も高まりますから、供給者の多くは次第に淘汰されていかざるをえません。
供給が先にありきの場合、特にそこにその時必要とされていないものを、消費者の心理や市場の動向の調査や分析などからまったく新たに生み出していくわけですから、非凡な感性や発想力などが要求され、先に需要ありきの場合に比べて誰もが参入できるわけではありません。そのためそこに必要な資本や人材などの一定条件が満たされれば、ビックビジネスにつなげていける可能性も高いと言えます。
とはいえども、これらは所詮は鶏か卵の関係ですから、最初のアプローチが異なるだけのことで、生まれてしまえば鶏も卵も両方が存在しているわけです。先に需要があっての供給の場合はもちろんのこと、供給を先に生み出して需要を開拓しても模倣する同業者が後から現れますから、やはりそこにも競争が生まれ淘汰されて最後に残るのは真に実力のある者だけなのであり、結局はいずれの場合においても最終的には同じ結果となります。
需要と供給が存在すれば、どこででもどんなビジネスでも成立する
需要者と供給者がそれぞれ一人ずついれば、そこに最も小規模ながらビジネスが成立します。例えば、家政婦であるとか、芸能人の付き人、私設秘書など、またビジネスとしてとらえることには語弊もあるでしょうが一般的な夫婦の関係もこの最小規模のビジネスの好例でしょう。供給者が最初の一人の需要者から始めて二人三人と需要を開拓していく行為が、ビジネスの展開ということになります。
世界中には実に様々なビジネスが存在しており、こんなことでビジネスが成立するのかと驚いてしまう場合も多々あります。例えば人通りの多い道に体重計を置いて体重を計らせていくらとか、水のタンクを背負って一杯いくらで水を売るなどという基準のビジネスが発展途上諸国ではごく当たり前に成立しています。先進国であっても貧富の格差が大きな国では、車で信号待ちなどをしていると物陰から飛び出してきて勝手にフロントガラスを拭いては運転手に小銭を要求するなどというような押し売りまがいのビジネスも多々存在していますし、最近は日本国内でも、ホームレスの人達を中心に段ボールや空き缶などを集めて回収業者に買い取らせたり、週刊誌やマンガなどを拾い集めては路上で格安で売ったり、捨ててあった日用雑貨品や電化製品などを修理したり、分解して部品を売ったりするビジネスなどもごく一般的になりました。
自ら望んでの特技や才能を生かしたストリートパフォーマンス、若い世代を中心にして自分で描いた絵画、自作の詩集、アクセサリーなどを路上で売る仕事は昔からありましたし、最近ではこうした人達の中にも、海外で買い付けた雑貨などをハンドキャリーして国内でさばき、そこからの収益でまた買い付けに出かけてはまた国内でさばくということでコストを一度で吸収しながら、年間数千万円もの収益をあげるような人もいます。またインターネットを様々な形で利用して個人で大きな収益をあげている人も多く存在しています。最近流行のネットオークションも、単発的ながらも最小規模のビジネスの一つと言えます。さらには長年の技術や知識と経験を高めた職人達まで、身一つで生活を立てている人達は世界中にたくさんいます。
結局のところビジネスの成否のカギは、需要と供給をいかに結びつけるかということにかかっています。一対一の需要と供給が結びつけばビジネスは開始できますし、極論どんなことであっても需要と供給が存在していればビジネスは成立し続けることが可能なのです。その需要と供給のボリュームを順次拡大していくことができれば、それだけビジネスの規模が拡大します。つまり傍にどんなふうに映るようなビジネスであっても、それをよしとする需要者が一人でもいればそれはビジネスとして成立しますし、さらに供給者の生活が立てていけるだけの報酬が需要者から得られるのであれば、そのビジネスは永々と継続されることも可能です。反対に多くの人達に共通する需要を開拓することができ、それに見合った供給を提供することができ、そしてさらに様々な経営上の手法を駆使して効率性と収益性を高めていけば、ビジネスの規模を飛躍的に拡大していくことももちろん可能になるのです。
→第3号 「二十一世紀は、持てるより持たざることがクールな時代」に続く
▼Success
>file#2-1 〜究極のビジネス?〜
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私のガールフレンドのお姉さんは、翻訳家でありまた私立探偵でもあります。
今回ここで紹介するのは彼女の探偵としてのビジネスで、まさに現実は小説より奇なり、彼女について知るようになった当初は私にとってまさに驚きの連続でした。
彼女は三十代前半で独身、外見は華奢で背もそれほど高くはなく、端整な顔立ちの女性らしさがあまり前に出ない中性的な印象の女性です。仕事上必要な時以外は普段メイクすらもしませんが、ひとたび本気になるとほとんど別人のように華麗に変身してしまいます。
そもそも探偵業に足を踏み入れたのは、叔父さんが某大手探偵社を経営している関係で、彼女がまだ大学生の頃に時折アルバイトをしたことが最初のきっかけだったとのこと。卒業後は、ある外資系のコンサルティング会社に就職して会計監査的な仕事をしていたようですが、上司の執拗なセクシャルハラスメントが原因で2年ほどで退職、その後語学力を生かして翻訳の仕事を始めたもののなかなか充分な収入が得られなかったこともあって、翻訳の仕事と探偵業の二足のわらじを履くようになっていきます。
彼女はどの組織にも所属しないフリーランスの探偵です。開業当初一年間はまったく仕事の依頼がありませんでしたが、最低限生活していくだけの収入は翻訳の仕事からあったため、特に宣伝や営業活動もせずにいたにもかかわらず、やがて彼女にとっての大きな転機となるあるきっかけが訪れます。もともと翻訳の仕事で出入りをしていたある会社の海外現地法人の責任者に現地業者からの収賄の疑いが浮上し、現地に赴任したうえでの実情調査を依頼されます。この仕事ぶりが認められたことをきっかけとして、この会社のトップの大きな信頼を得た以降はもう自然の成りゆきに任せて次々とこの会社やトップ個人の、さらにはその紹介での様々な依頼をこなしていきます。
現在の彼女のクライアントはほとんどがそうした企業あるいは企業のトップ個人で、取引先はほんの十件に満たないほどでしかないにもかかわらず、それでも彼女一人では依頼をこなしきれず、三件のうち一件を受けるのがせいぜいなのだそうです。
ヘッドハンティングの対象の現勤務先や取引先での評判や暮らしぶりの調査、海外駐在員の勤務態度や暮らしぶりなどの現地調査などといった簡単な依頼内容の場合には、叔父さんの探偵社や契約ベースの別の探偵に下請けに出すような場合もありますが、ほとんどの仕事は原則として彼女単独でこなしてしまいます。
企業秘密の漏洩ルートの特定、公金横領や贈収賄など業者との癒着といった社内の様々な不正調査、あるいは派閥抗争から依頼主を擁護するだけでなく抗争相手のスキャンダルメイクなどによる追い落としや総会屋などの外圧の解消など、ここでの記述が憚られるような他にも様々な事柄まで彼女の手がける仕事は複雑多岐にわたるうえに専門的で、契約社員の形をとったり新規取引先を装っての長期潜入調査など、期間的には数カ月時には一年以上にわたる場合が一般的です。
私は以前に一度半日ほど彼女について回ったことがあり、実際の彼女の仕事ぶりの一端を垣間見ただけでしたが、まるでスパイ映画さながらにあるいはそれ以上に感じたものです。
彼女は特別に事務所を持たず、ごく一般的なヨーロッパ車の内部を根本的に改造し、様々な調査に要する機器を搭載して移動事務所にしています。エンジンはひと回り排気量の高いものに、四方のガラスは外からは中が見えないものに変えられています。助手席とで一応二人は乗れるのですが、原則彼女一人の仕様です。助手席部分は彼女の作業スペースになっていて、座席は小型で360度回転します。オートマティックのギアとサイドブレーキは運転席前方に付け替えてあり、助手席との境もないフラットな構造になっていて、すぐに助手席に移動できます。通常ダッシュボードがある部分には3台のコンピューターとモニターが埋め込んであります。後部の座席部分は座席を取り払ってあって、上部はスキャナーやプリンター、録音および編集機器、GPS追跡システム機器などがスライド式で必要時に取り出せるように、下部は細かく仕切られた引き出しになっていて、遠く離れていても会話が録音できるような集音効果が高い各種ガンマイク、コンクリートの壁すらも通して盗聴できてしまう機器や調査対象の車や自宅に取り付けてしまう発信機や盗聴器の類いなど、あらゆる機器がぎっしりと収納されているチェスト兼作業台が据え付けられています。その脇にはデジタルカメラとビデオカメラ用の三脚代わりの二本の太い支柱が立てられていて、一眼レフタイプのデジタルカメラとビデオカメラ本体に加えて、1000ミリクラスまでの各種超望遠レンズや長焦点のズームレンズは、迅速に交換できるように特別注文で発注あるいは細部の仕様が改造されています。何とこうした車と調査に要する機器への投資額はほぼ一億円ということで、当初数年間の彼女の収入のほとんどすべてを、これらの設備投資に注ぎ込んだとのこと。
それだけに報酬も私の感覚では破格の条件に思えるのですが、着手金として200万円と費用(諸経費)準備金としての100万円の合計300万円が契約時に、さらに成功報酬として終了時に300万円、そのうえに着手後は一日あたり5万円の別途報酬に加え、諸経費は随時100万円ごとに精算していくという基本契約なのだそうです。 これも基本契約金額であって、依頼の難度や拘束の度合いに応じて報酬の金額はさらに高くなるのです。
こうした彼女の報酬も、彼女が当初独断で定めたもので、自分の値段は自分でそう決めてそれでいいという人とだけ取り引きするようにしないと、仕事をとりたいがために相手に合わせて価格を下げればきりなく安く使われてしまって、もうそれ以上の金額には戻らないという彼女の視点はとても的を得ています。
事実彼女は自らそれを証明していて、私には破格に思えるそんな条件であっても、継続的な依頼が見込める特定かつ複数の取引先という需要を確保しています。そして、不可能ではないにせよ彼女以外には達成がなかなか難しいと思われる専門的な仕事という競争力の高い供給を提供しています。さらにコストは別途保証されている限り無く100%に近い収益率、景気の動向の影響もほとんど受けることはなく、私も仕事がら様々な人達の様々なビジネスを見てきましたが、彼女の仕事の安定性と収益性の高さは群を抜いています。
次回は彼女と私が仕事上で関わった部分、彼女の個性的で効率の高い資産の運用方法についてご紹介します。
→第3号 ▼Success
>file#2-2 〜究極のビジネス?〜 に続く