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2005.06.29 | ■制限、規模に比例 新「会社法」きょう成立 会社組織の枠組みを定める法律が、29日成立する「会社法」で一新する。骨格はどれも同じだった株式会社は、有限会社に似たシンプルな形が基本になり、規模の拡大や株主の広がりに応じて仕組みが複雑になる。企業グループの再編も容易になるほか、多様化する事業の受け皿として新たに「合同会社」もスタートする。図表などを交えて「会社法」のポイントを整理した。(澤路毅彦) ●子会社、部局に近づく? 実際は有限会社が向いている零細企業なのに、信用を得やすいので株式会社にしている――こんな実情を踏まえ、新法は株式会社制度の中に有限会社を取り込んだ。 株式会社に「株式譲渡制限会社」と「公開会社」の2種類を設ける。全株式の譲渡が制限されるのが前者。取引所などに上場していなくても、自由に譲渡できる株式が一部でもあれば後者だ。 前者の「譲渡制限会社」が株式会社の基本形になる。有限会社の特徴を取り入れ、定款で経営のやり方を自由に決める余地を広げた。基本はシンプルで自由にして、大会社になったり、株式上場などで「公開会社」になったりすると、経営監視など機構を充実させるという考え方だ。 「譲渡制限会社」も株主総会と取締役からなるのは変わらないが、現行法で3人必要な取締役が1人でもよくなる。定款で定めれば、取締役会、監査役、会計参与、会計監査人、監査役会または三委員会を置くことができる。逆に省いても問題ない。三委員会とは社外取締役などで構成する監査、報酬、指名の各委員会のことで、取締役の活動や処遇に目を光らせる。 資本金5億円以上か負債200億円以上を大会社とし、監査などを厳しくする現行規定は新法でも残る。公開会社では取締役会の設置が必要だが、大会社だとさらに会計監査人を置かなければならないなど、要件が増える。公開・大会社なら、監査役会か三委員会を選ぶのは今と同じ。 機関のシンプル化で、企業グループが子会社を簡素化できる効果も大きい。今は、完全子会社でも大会社だと取締役会や監査役会が必要。新法だと譲渡制限会社なら大会社でも取締役会が省け、取締役と監査役各1人でOK。子会社はいよいよ「部」「局」に近くなるかも知れない。 新法では最低資本金制度が撤廃され、資本金1円でも起業できるようにした。これまで新事業創出促進法(4月から中小企業新事業活動促進法)を使えば1円起業はできたが、5年以内に資本金を増やす義務があった。新法ならずっと1円で構わず、経済産業省への面倒な申請も要らない。 ●合併・救済、広がる幅 欧州の会社制度を取り入れた1世紀余り前の商法制定、米国型の株式会社制度を導入した1950年の大改正。これらに匹敵する「会社法」の誕生で、主眼のひとつとなるのが「企業グループ」経営のやりやすさを追求したことだ。 合併などのほか、親会社が配下の子会社を売ったり買ったり、作ったりつぶしたりする手間がぐんと省ける。 まず、議決権の9割以上を持つ子会社の合併などは「略式組織再編」として子会社の総会決議が要らなくなる。一方、他の会社を吸収合併する時などの株主総会手続きを省くのが「簡易組織再編」。合併の存続会社が、相手の消滅会社の株主に与える株式が発行済み株式の20%以下なら、存続会社で総会特別決議が不要になる。現在は5%以下なので、大幅な緩和だ。 合併する時に、相手の株主に与える対価は存続会社の株式とされてきたが、これも別のもので代用できるようになる。「柔軟化」と呼ばれている。 これで、現金を与える交付金合併(キャッシュアウト・マージャー)や、子会社が親会社株式を入手して渡す三角合併も可能になる。ただし、外資による三角合併を恐れる経済界や自民党の要求で「柔軟化」そのものの解禁が1年先送りされた。 不振の会社を救済する策も幅が広がる。債権を株式に振り替えるデット・エクイティ・スワップ(DES)も手続きが簡素化される。債務超過会社の救済合併などで合併差損が出ても、情報開示をすれば問題ない。 ●ベンチャー向け、合同会社を新設 お金はないが知恵のある創業者に自由に経営させたい。貢献の見返りに配当を増やして報いたい――こんな希望が法律とかみ合わず、起業の障害になることがある。 新法は、合同会社(日本版LLC)というニュータイプの会社で、そんな声に応えようとしている。米国の有限責任会社(LLC)を参考にした。定款で決めれば自由に経営できる合名会社や合資会社に似ている。 合名・合資会社は、無限責任の社員(出資者)が負債などの責任を負うが、合同会社は有限責任の社員だけで構成される点が新しい。 経営方針や配当の分配率などを、出資比率に応じてではなく、社員の総意で決める。企業同士や、企業と大学研究者の共同研究やベンチャー起業に向くという。 新法とは別だが、日本版LLCに似た組織で有限責任事業組合(LLP)制度が経済産業省の主導で法制化された。会社ではないため不動産登記などはできないが、有限責任で、運営ルールを自分たちで決められる点は合同会社と同様だ。 課税も組合ではなく組合員だけに行われるため、会社と出資者に課税される合同会社より節税効果がある場合がある。 〔朝日新聞〕 |
2005.06.18 |
■米マスターカード、4000万枚以上のカード情報流出の危険 【ニューヨーク17日共同】米クレジットカード大手マスターカード・インターナショナルは17日、金融機関が契約するデータ処理会社のシステムで安全上の問題が起きたため、4000万枚分以上のクレジットカード情報が流出する危険にさらされた可能性があると発表した。米メディアは、これまで4000万件もの個人情報が危険にさらされた前例はないと報じている。 同社によると、金融機関と店舗の間の取引データを扱う会社、カードシステムズ・ソリューションズのシステムに欠陥があったため、第3者がネットワークを使ってシステムに侵入し、個人情報にアクセスした可能性があるとしている。約90%は米国居住者向けに発行したカードとみられる。 マスターカードは、クレジットカードの発行元となっている金融機関に通知、利用者保護対策を呼び掛けるとともに、他人が不正にクレジットカードを使っても、同社の利用者は保護されると強調している。 〔日本経済新聞〕 カナダのアセットメトリックスはこのほど、企業による「ウィンドウズXP」の導入率は38.2%にとどまり、46.6%が「ウィンドウズ2000」を継続使用していると発表した。「2000」は6月末で無償サポートの範囲が大幅に縮小されるため、注意を呼びかけている。 3月末に、約180社のウィンドウズパソコン約8万台を調査。特に250台以上を保有する中堅以上の企業では、過半数のパソコンが「2000」のままだったという。ほかに、9.7%が「NT」を搭載、「98」は3.5%、「95」は0.7%だった。 03年12月末の調査では、2000が52.7%、NTが13.3%、98が12.4%、95が14.7%、XPが6.6%だった。1年3カ月の間に、98や95からXPへの更新は進んだが、2000のシェアは約6ポイントしか減っていない。【南優人/Infostand】 アセットメトリックス 〔毎日新聞〕 |
2005.06.15 |
高度成長とともに低迷してきた農業が、有望ビジネスとして、再び脚光を集め始めている。今秋には、企業による農業参入が全国的に解禁される見込みで、異業種参入にはずみがつきそうだ。従来の建設業に代わる、新たな雇用創出としての期待から、ニートやフリーターの受け皿となる可能性もある。農業のアツイ今を追った。 そこは、もともと旧大和銀行の地下金庫だったのだが、人材派遣大手のパソナが今年2月、農園を創設したのだ。 発光ダイオード(LED)などの人工光や、コンピューターを駆使した室温調整、二酸化炭素を吹き付けるなどして、農薬を使わず、米やトマト、サラダ菜、レタスなどの野菜を栽培している。 青々しい空気に、緑あふれる癒やしの空間が広がり、都会のビルの地下にいることを忘れてしまう。見学者も絶えず、さながら「地下の楽園」だ。 パソナが多額な費用を投じて、こんな施設をオープンさせたのは、農業分野への人材派遣の需要が、これから拡大すると見込んでいるからだ。 「わが社のテーマは雇用の創出ですが、数年前から農業の可能性に注目してきました。ここは、いわば農業のショールーム。多くの人に農業の魅力や楽しさを感じてもらえたら、と思っています」(広報企画部) 2000円のリンゴ輸出 じつは、小泉首相も、郵政民営化の次に狙っている目玉政策は、農業改革では、という見方もある。1月13日昼。小泉首相は首相官邸に、作家の猪瀬直樹氏や先駆的な農業事業者を招いて、熱弁を振るった。 「農業に、大きな時代の変換期が来ています。北京では1個2000円の日本産のリンゴが売れている。高くても、おいしければ売れる。農業でも世界に進出できる。今後は守りではなくて、攻めていく」 この「攻めの農業」政策の一環として、今国会では、株式会社が構造改革特区だけでなく、全国どこでも農業に参入できるようにするための改正法案が審議されている。資本力のある株式会社の参入解禁で、農業経営の合理化、効率化なども期待できるのだ。 実際、食の安全性への関心の高まりから、大手企業も参入に意欲を見せている。 ワインメーカーのメルシャンは、長野県で、高級ワイン用ブドウの自社栽培を2003年から始めている。高品質で、コスト競争力のあるブドウづくりを展開することが狙いだ。現在、ほかの場所での自社栽培も検討中だという。 大手居酒屋チェーンのワタミも、千葉県などで、キャベツや白菜を栽培し、店舗でのサラダなどに使用している。 「自分たちで生産すれば、トレーサビリティーもしっかりできます。何の野菜が必要なのかを考えて栽培、収穫するので、効率的な作業も可能です」(担当者) 前出のパソナは、新規就農や農業法人への就職を目指す人を対象に「農業インターンプロジェクト」を2年前から実施している。 農業、成長産業に変身? 地方でも、注目される動きが始まった。農作物の生産を始める中小の建設会社が、相次いでいるのだ。 背景には、公共事業の減少など、建設業を取り巻く環境の厳しさがある。戦後、農業から建設業へと人口が流れ、列島改造論の田中内閣が発足した1972年には、男子の就労者数で、建設業は農林業を追い抜いた。 しかし、いまや、そんな勢いはない。建設総投資額は、ピーク時の92年度の84兆円から、04年度は52兆円と、4割近く減少した。建設業で働く全国約600万人の雇用問題も深刻だ。 一方、農業自体も危機的な状況にある。食料自給率は先進国では最低水準の4割。約362万人の農業就業者のうち、6割近くが65歳以上。高齢化と後継者不足に悩んでいる。諸外国からは、農産物の一層の輸入自由化を迫られているのだ。 NPO法人・建築技術支援協会の米田雅子常務理事は、「公共事業に依存する地方経済のあり方には、限界が来ています。でも、明るい兆しもあります。『建設帰農』の動きです。建設業者が、新しい農業に挑戦し始めたのです。農家単位では難しかった農業の革新も、企業がこれまでのノウハウを使えば実現できます。農業が成長産業に変身できる可能性は十分にあります」と指摘する。 米田氏によると、農業に参入し始めた建設業者は全国で120社を超えるという。分散した農地の作業に、工程計画を導入して生産効率を向上させた企業や、生産だけでなく加工・販売までのアグリビジネスに成功したり、観光とタイアップした企業などもある。 放置より、有効活用 鹿児島県松山町にある大迫建設の大迫勇社長は、その先駆者のひとりだ。すでに13年前から、副業として、焼酎用のサツマイモ「コガネセンガン」を生産し、地元の焼酎メーカーに供給している。 「バブルが崩壊して、建設業だけでは先細りしてしまうと考えたんです。会社を持続させるためのリストラには限度があります。いろいろと新しいことを考えていかないといけませんよね」 サツマイモの苗の植え付けは4―5月に行うが、年度初めは公共事業の件数が少ないので、人の手配などの面でも好都合なのだという。 こうした建設帰農は、島根県や北海道など、公共事業への依存度が高い地域で、とくに目立っているようだ。 ただ、天候に大きく左右される農業経営は容易ではない。輸入品との競争も厳しく、「農地開拓や農機具などの費用を考えると、採算がとれない」などと、赤字に苦しむ企業も多い。 行政も支援に乗り出している。青森県では今年度から、建設業者の農業技術習得のために、「農業教え隊」を発足させた。無料で農業経験者を派遣して、実践的な指導を行う。鹿児島県は昨年、「建設業経営革新・新分野進出支援チーム」を発足させ、情報提供や相談に応じている。 今後、さらに加速していきそうな株式会社の農業参入だが、農業団体などには、農村のコミュニティーが壊されるなどの理由で消極的な意見もあるようだ。 しかし、現状のままでは、農業の縮小傾向に歯止めがかからないことは、間違いない。農地を放置するより、有効活用することには異論はないだろう。 そうしてよみがえった農業が、少子高齢化に怯えるニッポンの現状に風穴を開けることを期待したいものだ。 カギは“農業の民営化” そこで着目したのが、新しい農業の可能性です。青森のリンゴや山形のサクランボなど、日本の農作物の技術レベルは、世界トップレベル。しかし、農業産出額はわずか9兆円に過ぎない。適切な戦略をもてば、輸出額ももっと拡大できます。 大切なことは、農業はつくればよいではなく、どう売るかです。家電などは、消費者動向を調査し、品揃えなどを変えます。同じセンスが、農産物でも求められています。 雇用が創出されれば、フリーターやニートと呼ばれる若者の受け皿になれる可能性だってあります。 とにかく、農業再生には、異業種からの進出が必要です。観光業とのドッキングだって考えられます。ペンションの脇に畑をつくったりとか。そのためにも「農業の民営化」を進めていかないといけないですね。 〔YomiuriWeekly〕 |
2005.06.12 |
■(幸せ大国を目指して:11)カイゼン競争の先は 1千点の部品があるキヤノンの最高級デジタル一眼レフカメラを3時間強で、一人で組み立てられる女性がいる。大分キヤノン(大分県安岐町)の金林さおりさん(33)。キヤノングループの組立工として最高の技術をもつ「S級マイスター」の一人だ。 ●「仕事に自信」 もともとはベルトコンベヤーに沿って単純作業をこなす組立工の一人だった。6年前、ベルトコンベヤーが撤去され、一人が複数工程を受け持つ「セル生産方式」が導入され、「すべて自分で組み立てたい」という気持ちが芽生えた。全26工程を少しずつ覚え、完成品を作れるようになった。特別手当はないが、「働きがいや仕事の自信につながっている」と言う。 コンベヤーの流れに合わせて組立工がロボットのように同じ作業を繰り返す「分業生産方式」は、20世紀初頭に米自動車メーカー、フォードが生み出した。トヨタ自動車がそれを「カンバン方式」に発展させて一層効率を上げた。そのトヨタ式が多くの日本企業のお手本となった。 ルポライターの鎌田慧氏は73年、著書「自動車絶望工場」で、とことんまで効率を追求したトヨタの工場を「(従業員が)極端に細分化された作業の繰り返しに追いまくられる」と批判した。 その工場の光景を一変させたのがセル方式だ。単調な作業でなく、複数の作業を受け持たせ、工夫の余地を与えようという発想で生まれた。各集団が細胞(セル)のように自律的に動くことから名付けられた。大分キヤノンでは同方式の導入で一人当たり生産量が5割増えた。 生みの親の生産コンサルタント、山田日登志・PEC産業教育センター所長(65)はトヨタ方式の申し子だ。70年代初め、カンバン方式を生んだ故・大野耐一氏(元トヨタ自動車工業副社長)の講演に感銘し、直接指導を受けた。その後、トヨタ式の「カイゼン」を重ね、進化させ、セル方式にたどり着いた。 同方式は、92年にソニーの工場に初めて導入され、その後も山田氏の指導で数百カ所の工場に導入されている。 メーカーは果てしなき効率競争に血道をあげる。それも、生産コストの安い中国などでの生産増で国内工場が空洞化しかねない、という危機感からだ。 ●400万人以上減 日本企業の03年度の売上高に占める海外生産比率は15・5%と過去最高で、10年前のほぼ2倍。一方、国内の製造業の就業者数はピークだった92年から400万人以上減り、04年は1150万人となっている。 その流れにあらがって、何とか国内工場を残そうとしている企業も少なくない。シャープが三重県亀山市で04年に操業した液晶パネルの最新鋭工場はその代表例だ。 ただし、同社の主眼は、先端技術の海外への流出防止や研究開発と生産との連携にある。必ずしも雇用の維持を目的としておらず、工場の2600人のうち正社員は800人にとどまる。あとは削減対象とされやすい請負会社の社員だ。 請負会社の求人には当初、地元から応募者が殺到したが、雇用が不安定だとわかると急減した。いまは日系ブラジル人や東北地方での求人に頼っており、地元と企業が濃密に結びつく企業城下町の光景はない。 生産現場の研究に取り組む藤本隆宏・東大教授は非正社員の増加は「効率化が労働者にしわ寄せされていることを示すものだ」と指摘する。「非正社員が熟練を増してもそれに見合う待遇を受けていない」 効率主義の徹底はさらに工場の「無人化」へと進みつつある。キヤノンは07年末までに国内生産額の4分の1をロボットにゆだねる。組立工5千人が必要なくなり、正社員は配置転換、過半を占める非正社員は契約打ち切りとなる。 ●技術流出防ぐ デジカメのような複雑な製品は、まだ人手に頼らざるをえない。ただ、そこにもロボットの能力は少しずつ及びつつある。 制御機器製造の和泉電気(大阪市)の兵庫県滝野町にある生産現場。2台のアーム型ロボットと作業台を組み合わせた「ロボットセル」20台が24時間休みなしで稼働している。最大45個の部品を器用につかんでは組み立て、140種類の継電器を完成させる。 ロボットセル導入には技術流出を防ぐ狙いもあった。同社の中国工場で生産すると、すぐに精巧なコピー製品が出回るからだ。 藤田俊弘執行役員常務は「いずれ一眼レフデジカメを組み立てられるロボットもできますよ」と自信を見せる。 生産現場で、人間はロボットから追い出され、いずれ姿を消すのだろうか。 佐藤博樹・東大社会科学研究所教授は、それでも製造業の未来に人間は欠かせないとみる。「人はマニュアル通りに動くだけでなく、不良品を見分け、その原因を追及し、改善できる」 日本を世界第2位の経済大国に引き上げたのは「ものづくり」の力だった。それを支えたのが下請けの中小企業群だ。東京都大田区で40年以上、精密機械を作ってきた零細企業の社長(66)はものづくりの魅力を「苦労してやっと完成したときの喜び」と語る。 ただ、中小・零細工場にそれを享受する余裕はなくなっている。同区の工場数はここ20年、受注減と後継者不足で半減した。別の経営者は「生き残りたいとがんばっているが、苦しみの方が多い」と嘆く。 果てしなく続く効率化競争については、セル方式の伝道師、山田氏でさえ「キリがない」と話す。現場の作る喜び、やりがい、創造力――。そうした働き手の視点を置き去りにすれば、ものづくりの強さを支える土台は揺らぐ。(田中孝文)
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2005.06.11 |
■フジとライブドア、業務提携第1号・無線LANで映像伝送 フジテレビジョンとライブドアがニッポン放送株争奪戦の和解条件として盛り込んだ業務提携の第1弾が10日、明らかになった。ライブドアが7月に都心部から始める公衆無線LAN(構内情報通信網)サービスを、フジが番組制作などで利用することで両社が合意した。来週にも開く無線LAN事業の説明会で、両社が提携内容を発表する。 提携により、フジの制作担当者や記者が小型カメラで収録した映像を、ライブドアの無線LANを通じて本社に伝送できるようにする。視聴者参加型の番組では、視聴者が撮影した映像などを無線LANを通じて受け取り、番組制作に利用する。フジのテレビ番組案内をライブドアのポータル(玄関)サイトなどで流すほか、フジサンケイグループの広告を掲載することも検討する。 〔日本経済新聞〕 |
2005.06.09 |
自動織機は、大手商社の豊田通商など有力グループ企業との間で、自己保有株式を交換する。自動織機株をグループ内に再配分して50%以上にする。過半数を握れば、敵対的買収の相手が役員派遣などを求めても拒否して、経営の主導権を保てる。 自動織機は、その自動車部門がトヨタに発展した経緯から、グループ各社の大株主となっている。04年9月末でトヨタ株5・5%のほか、自動車部品最大手のデンソー株7・9%、同2位のアイシン精機株7%を持つ。フジテレビ株を大量保有することから、ライブドアの買収対象となったニッポン放送と同様の図式がトヨタグループにはある。 しかも、自動織機の保有株は時価1兆円を超えるのに、自らの時価総額は9500億円しかない。買収後すぐに会社を解散して資産売却すると利益が出る計算で、買収対象になりやすかった。 トヨタによる自動織機株の保有率は23・5%あり、これ以上買い増して、25%を超えると、自動織機がトヨタの議決権を行使できなくなる。このため、トヨタ本体は今回は、自動織機との持ち合いを強化しない。 自動織機は87年、会社に高値で引き取らせるために株を買い占める「グリーンメーラー」に狙われた経験がある。それ以降、買収対策として、グループ企業や友好的な銀行、生保などとの持ち合いを続けてきた。ただ、バブル崩壊後は、持ち合い解消もあり、不安定な要素も出てきた。 国会で審議中の新「会社法」が成立すると、07年にも親会社の株を使って企業買収を行える「三角合併」が認められるようになる。時価総額の大きな外国企業を親会社に持つ企業にとっては、巨額の現金が不要になるため、敵対的買収がしやすくなる。トヨタとしても、何らかの対策が急務となっていた。 ライブドアによるニッポン放送とフジテレビに対する買収騒動が、日本企業の防衛本能に火をつけた。敵対的M&A(合併・買収)の防衛策ビジネスも花盛りだ。しかし、買収が日常的な米国流の手法は、「後進国」日本の実態とかみ合わない部分も多い。吹き寄せる「買収風」と、高まる「防衛熱」の間で、企業を守るとはどういうことなのかが問われている。 「備えあれば憂いなし。優秀な弁護士事務所に任せれば大丈夫です」 東京・内幸町の帝国ホテル。企業法務で名の通る森・濱田松本法律事務所が5月31日に開いた「企業防衛セミナー」のパーティーで、威勢のいい弁護士のあいさつが場内の企業幹部ら数百人のどよめきを誘った。「仮想敵国のいる企業は大変でしょう。うちも手遅れにならないうちに準備しないと」。参加者からはこんな声が聞かれた。 この日は、事務所考案の「信託型ポイズンピル(毒薬条項)」のPRが主眼。買収者以外の株主を平等に扱い、ポイズンピルを発動するかどうかは、社外取締役の「客観的な判断」を重視。株主総会の承認も得て、仮に株主から「経営者の保身だ」と訴えられても法廷で負けるリスクを極力抑えたのが売り物という。 防衛策の商機を追うのは法律事務所だけではない。あるIT企業の財務担当には、この春、信託銀行からポイズンピルの売り込みが相次いだ。「コンサルだけなら1千万〜2千万円。導入なら、その数倍いただきます」と強気そのもの。 ●先読む担い手 外資系ファンドに買収を仕掛けられたことのある企業の幹部のところには、野村証券がライブドア騒動で有名になったソフトバンク・インベストメントを連れてきた。「『私たちはホワイトナイト(白馬の騎士)です。対抗策はお任せください』と。こんな商売があるのかと感心した」 今年の株主総会でポイズンピルを導入する企業は10社程度。だが、「毒薬ビジネス」の担い手たちは先を読む。「これら先行組が総会を乗り切れば、様子見の企業が雪崩を打って後を追う」(大手証券幹部) だが、防衛策にいくら凝っても、日本の現状でうまく機能するかどうかは別問題だ。「本命」とされるポイズンピルですら、すんなり行かない。 発動や解除を社外取締役が審査する東芝。4月末の取締役会で「私たちに東芝の命運を決めろというのか」と、導入に異論を唱えたのは当の社外取締役たちだった。元中国大使や元慶応義塾塾長などのキャリアと識見を見込まれた人たちだが、「企業経営には素人同然」(社外取締役の一人)。執行部が「我々を手足として使って下さい」と説き伏せ、決定にこぎ着けた。 社外取締役制度そのものが未成熟な日本で、判断が経営寄りになり、株主利益が損なわれないのかどうか、心もとない。 ニッポン放送の新株予約権発行問題では、企業法務の権威と言われる社外取締役の弁護士の判断が、後で裁判所に否定された。 ●市場厳しい目 株式市場の反応も厳しい。ブロードバンド通信大手のイー・アクセスが5月、ポイズンピル導入を発表すると売り一色になり、ストップ安に。経営から独立した社外取締役が判断する仕組みだったが、個人投資家が「株が明日にも大量発行されるのでは」との不安にかられ、5営業日連続で株価は下落した。 5月31日、東京・虎ノ門のホテルオークラで営まれた元日本生命社長の故伊藤助成氏のお別れ会。列席した大企業の首脳たちが、松下電器産業の幹部に「あの防衛策はよくできている。ウチにも教えてほしい」と言い寄ってきた。 防衛策の発表後、ほとんどの企業が株価を下げるなか、松下の株価は好調だった。取締役会の役割を買収提案の情報収集や代案の提示に限り、買収者と経営陣のどちらを選ぶかは株主の判断に委ねる点を明確にした。 買収者には、買収の目的や具体的な経営プランの提示を求め、応じないなら新株予約権の株主割り当てや行使、株式分割で対抗する。 だが、裏を返せば、買収者が正当な手続きに従う限り、経営陣は丸腰で、株主の審判を受ける。「松下さんは、よほど自信があるんですなあ」。別の上場企業の首脳は皮肉った。 株主利益を損なわずにいかに防衛策の効果を上げるか。相反する二つの命題のはざまで、企業の模索は続く。 ◇ ◇ ◆キーワード <ポイズンピル> 新株予約権を活用した防衛策の一種。買収者が一定割合を超える株式を買い付けると買収者以外の株主は予約権を新株に換えることができ、買収者の持ち株比率を低下させる仕組み。米国企業で防衛策として普及している。発動・解除を取締役会が最終判断する「強毒タイプ」、株主の判断に委ねる「弱毒タイプ」に分けられる。 また、(1)企業価値を損ねる買収提案なら対抗策を講じるとだけ宣言しておき、新株予約権をあらかじめ発行しない「事前警告型」(2)予約権を発行して信託しておき、買収をかけられた時点で買収者を除く株主に配る「信託型」(3)特定の友好先に予約権を発行する「第三者割り当て型」などに分類される。 ◇ ◇ ◆ポイズンピル型防衛策と導入企業 【弱毒タイプ】取締役会は情報収集や代替案の提示にとどめ、買収提案を受け入れるかどうかは株主の判断に委ねる ・事前警告型 松下電器産業、アイダエンジニアリング 【強毒タイプ】取締役会や第三者機関が株主に代わって買収提案の善しあしを検討。妥当でないと判断すれば、株主に委ねずに拒絶できる ・事前警告型 東芝、オリンパス、ウッドワン、ジャック・ホールディングス ・信託型 西濃運輸、ペンタックス、アイティフォー、サイバード、イー・アクセス、ウッドワン ・第三者割り当て型 TBS (注)ウッドワンは税制を見きわめてから事前警告型か信託型かを選択 |